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第4話 安心できる場所
「そんな約束をなさってたんですか。」
ウルラのための準備用の道具として、管理官から張り型や香油を手渡されて――そんなものを渡されるとは思ってもいなかった。
宿舎での準備が不安なら、この部屋で準備してもいい。と言われたので、リオネルはヘイデンとの約束を打ち明けることにした。
準備中に入ってこられたらたまらない。
リオネルの言葉に軽く頷いた管理官は、リオネルを促してヘイデンの使う扉の前に立ち、扉にかけられているリースを示した。
「この、飾りをかけているフックが、この扉の鍵です。」
「鍵?」
管理官が頷いた。
「そうです。ここに何か物がかかっていると、ディッカー殿はこの扉を開けることができません。」
「あ、え!そうなんですか。」
はい。涼しいトーンで返事をした管理官は、自分が普段出入りする扉にもリオネルを連れて行き、そこにもフックがあることを示した。
「あなたがこの部屋を使う時には、ここに――、」
そこまで言って、隣のチェストの上のリースを指差した。
「そのリースをかけると、扉は開けづらくなります。こちらの扉だけは、完全に閉じはしません。安全のため。」
「……すごいですね。」
専用部屋だけでも十分すごいと思っていたのに、
出入りまでここまで管理されているとは思っていなかった。
「あ、では、必要な時はあのリースをかけておけばいいってことですね。」
「そうです。この部屋のディッカー殿のリースは、こちらでは勝手には触らないようにしますね。」
「はい。ありがとうございます。」
それから寝台や浴室、手洗い場など室内の設備を案内された。
暖炉の薪も時期になればメイドが整えるらしい。
「――生活できますね……。」
ポツリとそういうと、管理官が当たり前のように頷いた。
「それだけの貢献をいただきます。
何があっても、あなた方が安心できる場所を提供するのは、私たちの最低限の責務です。」
自由に使ってください。
管理官はそう言うと、自分で扉にリースをかけて、力いっぱい扉を引っ張って退室していった。
一人室内に残されて、
――まだ実感のなかった番い交渉の話が、やっと現実味を帯びてきた気が、した。
思いっきり引っ張って帰っていったなあ、そう思いながら、ヘイデンの扉に近寄り、フックからリースを外した。
――ガチャ。
「へ、ヘイデン」
「ロビン?昨日ぶり」
タイミングよく開けられた扉に、びっくりして二、三歩後ずさりすると、
ヘイデンが慌てた様子で両腕を掴んで引き寄せてくれた。
「ご、ごめん、ありがと」
「どしたん?」
顔を覗き込んでくるヘイデンに、手に持ったリースを掲げてみせた。
「今ね、鍵外したとこだったんだよ。」
鍵??と不思議がるヘイデンに、この部屋の仕組みを説明してやると、ヘイデンも「すっげえ」と素直に驚いていた。
「あ、じゃあ、ここ開かんかったら鍵かかってるってこと?」
「うん、そう。俺が――――」
そこまで言って、テーブルに置かれたままの色々な物を思い出し、
リースをヘイデンに押し付けてから慌ててテーブルに駆け戻る。
幸い、それらの道具は、トレイに乗せられて、上から布をかけられていた。
「ロビン?」
「ひぃあ!――びっくりした。」
「あー、ごめん。それ何?聞いていいやつ?」
「だ、だめ」
慌てて自分の腕の中に抱き寄せ、ヘイデンから見えないようにする。
それから、あっち向いてて、と言い渡して、自分の部屋の近くにあるチェストの中に放り込んだ。
「覗かんよ……」
リースを両手に持って少ししょげた様子のヘイデンに、
わかってるんだけど、俺が恥ずかしいの!と声をあげてしまい、
ますます自分を追い詰めてしまったことに気がついた。
「ロビン、頭触っていい?」
「え?……うん」
ポンポン、と、頭の上にヘイデンの大きな手が乗せられた。
「ロビンのやなことはしない。見てほしくないものは見ない。知ってほしくないことは、知ろうとしない。
怖いこととか、気になることあったら言って?そのためにも、ここで会おうって約束したんだし?」
その仕草で、そんなことを言うのは、少しずるいような気がしたのに、リオネルには手を振り払えなかった。
その日は深夜勤務なので、少し様子を見にきただけ。と言うヘイデンを見送って、
しっかりと、フックにリースを掛けなおした。
フックがかかっている時が、どんな時なのか、を聞かれなくて良かった。
もしかしたら気づいているのかもしれないけれど、
お互い分かっているのと、分かっていないのとでは、意味も、自分の耐性も全然違う。
「恥ずかしすぎるじゃん…。」
ヘイデンの扉にしばらくもたれた後で、よし、と体勢を整えた。
――やろう。
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