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第6話 えっちいよ
思いがけず大きな声が出てしまったので、両手で口を押さえた。
ヘイデンは、リオネルの声で起きた様子はなく、静かに眠っていた。
そっと近づくと、外回りから帰ってきたままの格好で寝ていることに気づいた。
昨日は深夜勤務だと言っていたはずだ。
もしかして朝からこのままなのだろうか。
「――ヘイデン。ヘイデン、起きて?」
ソファの隣にかがみ込んで肩を控えめにゆすってみると、「ん……」と、小さな声で返事をされた。
「起きてってば。そんな格好で寝ても疲れ取れないよ。」
もう少しはっきりとゆすってみると、その手をヘイデンの手に握られた。
「――――。」
――なんか言ってる。
聞こえないなあと思って顔を近づけると、ヘイデンの目がうっすらと開いた。
「――あ、ロビンだ。」
「……おはよ。いつから寝てたの?」
ふあ、とあくびしたヘイデンが、涙声で答えた。
「んー、多分夕方くらい。今何時ごろ?結構寝ちゃったかな」
「えっ、まだ。――まだ全然。お夕飯時。ごめん起こしちゃった。」
朝からここで寝ていたのかと思ったら、なんと夕方からだと言うから、リオネルは申し訳ない気持ちになった。
「え、いいよ。ありがと。
ロビンに会いにきたんだから、起こしてくんないと。」
――あ、なんか。
きゅうん……、とした。
にこにこしながらリオネルの手をもて遊ぶヘイデンを、少し眺めてしまった。
「じゃあ、――ご飯でも食べる?夕方から寝てるなら、食いはぐれてるでしょ。なんかもらってくるよ。」
「え、いいん?ロビンも食べる?」
その言葉に、リオネルは首を振った。
「僕はもう食べてきた。でも、夜食くらいなら入るよ。」
それで、仕事上がりそのままのヘイデンを部屋の浴室に追い立てて、
リオネルは宿舎の食堂へ簡単なものをもらいに行った。
腰痛に悩むおばちゃんはリオネルの患者さんなので、顔を出すと多少のわがままは聞いてもらうことができる。
いつもの通りにお願いをして、特製のサンドイッチを用意してもらった。
それから、果物。
わざわざ用意してもらったので少し時間がかかってしまった。
放っておいたらまた眠ってしまいそうな気がして、リオネルは急いで部屋に戻った。
「おかえり、ありがと」
「ん。」
眠たそうなヘイデンに迎えられて部屋に入ると、室内の灯りが増やされていた。
――あ、しまった。
ヘイデンがどこから灯りを取ったのかを考えたら、さらさらのボトルが出しっぱなしだったことに気がついた。
――忘れてた……!
部屋に入ってきて、固まってしまったリオネルを不思議そうにみながら、ヘイデンが歩いてきた。
「もらおっか。ありがとね。」
「……うん」
小さい声で返事をしたリオネルを不思議そうにみてから、ヘイデンはリオネルの手からトレイを引き取った。
「ん?」
ヘイデンが、リオネルに手を差し出しながら、短い疑問を投げかけてきた。
それで、ついその手に自分の手を重ね合わせる。
にこっと微笑んだヘイデンに連れられて、ソファまで誘導された。
「はい、座ろ」
隣に座らされ、ヘイデンがトレイの上の食事を眺めて嬉しそうにしているのをみていたら、
――ボトルのことは、……まあ、いいか。
「食べて。おばちゃんにお願いして作ってもらってきたから。」
「すごいねコレ。どんなふうにお願いしたらこんなことになるん?」
「――内緒。」
それで、その日ヘイデンが深夜巡回で遭遇した酔っぱらいの話や、街にある美味しくて安いパン屋の話など、
どうでもいい話をしながらヘイデンが食事をとるのを見守った。
「――あれ、ほっぺんとこ血が出てるよ。」
隣同士並んで座っていたので、反対側の頬にできていた剃刀負けにはしばらく気づけなかった。
気づいて指摘すると、ヘイデンが頬を撫でながらぼやく。
「あー、剃刀負けした」
「さっき剃ったの?」
普段と違うナイフで髭を剃ったからかもしれない。
みせて、そう声をかけながら顔を近づけると、ヘイデンは少し気まずそうにしながら左頬をリオネルに見せた。
少し、肩も痛そうにした。
それで、まだあの打ち身などが癒え切っていなかったことを思い出した。
「あ、ごめん。無理させたかも」
「ん、――ううん、大丈夫。」
一拍、間が空いてからヘイデンが答えた。
眠いのかもしれないな、と感じた。
深夜勤務のあと、夕方まで仮眠も取らなかったんだろうか。
ヘイデンの頬に触れ、少し肌もカサついていたのに気づく。
――あ。
「待ってて。いいのあるかも」
「うん」
おとなしくなされるがままのヘイデンを置いて、自分の部屋の近くのチェストに近寄る。
ボトルを取り上げて、蓋を開けて手に取り出した。
顎下に塗って、感触を確かめてみる。
ふわっと優しい香りが鼻先を掠めた。
――大丈夫そう。粘膜に使うものだし、きっと優しい処方だ。
「よし。」
手のひらに出して、両手で温めながらソファへ戻る。
ヘイデンはおとなしく果物をつまんでいた。
「ヘイデン、こっち向いて。」
「ん?」
言いながらこちらを振り返るヘイデンの頬を両手で挟む。
頬の下に何か入っていて、咀嚼している途中だったと気づいた。
「ふは、ごめん。噛んでていいよ。」
挟んだ頬を、手のひらで包むようにして、香油を浸透させてやる。
少し上下に手を動かして、軽く押し込む。
その手のひらの下で、ヘイデンの顎が遠慮がちにもごもご動き、ごくんと飲み下す音がした。
「――あのさ、ロビン」
「うん」
「この格好は、結構えっちいよ。」
「――はあ?!」
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