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第7話 癖

 ただのお手入れだろ!と返しながらも、確かに少し距離が近かったとも感じた。  ――仕事の癖が出た。  治癒術師――いや、医療に携わる者は、常にそういう目線に晒される。  人の体に直接触れる仕事。どうしても変な勘違いを起こす人間はいるし、そうでなくても人との距離が近い職業であることを軽視する人間もいる。  だから、処置中以外での人との距離にはちゃんと気をつけていた。  はずだったのだけど。  へらへらと笑うヘイデンを追い出して、おやすみ!と言い渡すと、リオネルはフックにリースをかけ直した。 「……患者さんだしなあ」  つい肩の具合も気になるし、ヘイデンの健康も気になる。傷を見つけたらケアしてやりたくなるし。  ――もう、ヘイデンが悪い。    なんだか腹が立ってきて、リオネルはテーブルに残った果物を口に放り込んだ。  結局、昨晩リオネルは準備とやらをまた何もすることはできなかった。  ただ、ヘイデンと同じように湯を使って、それからサラサラの香油でリオネルも同じように肌をケアしてみた。――香りや、肌触りが気に入ったので。  もしかするとこの香油は、ケア用なのかもしれない。 「おはようリオネル。なんだか今日は、――機嫌が良さそう、だね?」  サミュエル先生に朝の挨拶をすると、そんなことを言われた。 「そうですか?」 「うん。なんとなく、――ああ、肌艶がいい感じ。いいなー若いって」  そう言いながら頬をぽりぽりするサミュエル先生も、決して若くないわけではないけれど、そう思いながら笑って返した。  今日はヘイデンも肌艶がいいのかな。  そう思うと、なんだか面白い。つやつやのヘイデン。 「くくっ」  ちょっと声に出して笑って、それからリオネルはいつも通りに仕事を始めた。 「リオネル、今日なんかいつもと違うんじゃない?」    定期の体調管理のために訪れている騎士にそう問われた。    ――また言われた。  さらさらのやつ、すごくない?  そう心の中で思っても、顔には出さないように努める。   「そうですか?特に何も変わりませんよ」  総勢40名ほどの騎士達。心を無にしてどんどん計測を続ける。  身長体重のほか、胸囲、腹囲、大臀筋周りなどの身体のサイズの計測、腕や脚の可動域や隠れた負傷の有無の確認など。調べることはたくさんある。  騎士の背中に手を回して胸囲を図ろうとしたところで、背中に手を回され、体の近くに引き寄せられた。  ――こいつ。   「香りもいい、――誰かこの中に狙ってるやつでもいるの?」  ニヤけた声でそう言われて、腹の底にぎゅっと力が籠ったが、努めてなんでもない顔で身体を離した。  測定を続けながら冷静な声で言ってやる。   「ひげ剃りの香油一つ変えただけで恋が実るなら、世の中平和なもんです。  騎士さんも出番がなくてよさそうですね」 「――お、おお……」  それきり黙り込んだ騎士の腕を、持ち上げたりおろしたりなどして計測を済ませ、次に交代する。  こういう時にはからかいが連鎖していくことが多かったのだが、  このあとは皆、大人しく測定されてくれた。  不快なことを、不快だと示しただけ。  ただ、それだけだった。  ――見てほしくないものは見ない。  ヘイデンの言葉が、ふと頭をよぎる。  自分だって。  嫌なものを、嫌だと思ってよかったのかもしれない。  

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