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第8話 湯気の中

 大勢の騎士たちの身体測定を終えて、報告書をまとめ終わると、終業時刻が迫っていた。  もう少し仕事をして帰ろうかと一瞬考えて、昼間、騎士にからかわれたことを思い出した。  ――帰ろ。  むかっとした気持ちのまま荷物を鞄に詰めて、サミュエル先生に挨拶をして医務室を出た。  同じように距離が近いのでも、ヘイデンならなんともないのに。  そう思って、部屋でのヘイデンとのやりとりを思い出してみる。  ――距離が近かったのは、自分の方だったかもしれない。  少し反省しながら外に出てみると、空はまだ明るく、それだけでリオネルは少しいい気分になった。  早い時間の食堂で温かい食事をとり、ちょっと考えてから果物をもらって自室に戻った。    前の日と同じように着替えを持って、それからぬるぬるの方の香油を持って、扉を開けた。  部屋にヘイデンはおらず、窓の外からは、斜めになった陽が差し込んでいた。  浴室に入って、湯を張る。  湯が溜まるのを見ながら、香油のボトルを手に取る。  わからん。  わからないし、そこに自分で触るのが少しいけないことのようにも思えて、なにより普通に怖かった。  ――だいたい、粘膜だし、傷だってつきやすいし、そうしたら感染症のリスクだってあるし、  ――痔!とか、やだし!  もやもやしたまま、リオネルはゆっくりと湯の中に身体を沈めた。  こういうのこそ、魔法とかでぱぱーっとなんとかしてくれたらいいのに。  思いながら、そっと湯の中でそこをなぞってみる。  思いのほか、ちょっとくすぐったかった。    もう少しなぞってみる。 「――」  なぞっているだけだと、ちょっともどかしいような、くすぐったいような、変な感じがする。  その少し前も一緒に撫でてみると、ちょっとだけお尻の筋肉が縮まって、それから思わずため息が出た。  ――これ、は……痛くはない。  ふくらんできたものは一旦無視することにして、もう少しそこをなぞってみる。少し前のところも。 「――っ、はぁ」  あんまり続けたら、のぼせそうだった。  それで、ゆっくりと指を滑り込ませ―― 「――――っ」    ――ここは、ぬるぬるの出番だ。    あとでぬるぬると和解しよう。そう思いつつ身体を清め、借り物のガウンを羽織る。  浴室に持ち込んだ香油のボトルを持って部屋に戻り、ふと気配に気づいてリオネルは顔を上げた。 「ロビン、あったまってきたん?」 「ヘ――イデン!?」  びっくりして声を上げると、ヘイデンも少しびっくりしたように眉毛を上げて、ごめん、驚いた?と聞いてきた。 「い、いつから――いたの」    後ろ手に香油のボトルを隠して尋ねると、どことなく眠たげな顔をしたヘイデンが、にこっと笑った。 「ちょっと前」  ――いつ!  邪気のない笑顔になんだか胸の奥がそわそわして、リオネルはぱっと部屋の扉に駆け寄った。 「果物もらってきたから、持ってくる!」 「ほんと?やった」  ヘイデンの返事に気が抜けそうになりながらも、自室に駆け込んで香油を置き、果物をひっつかんでまた戻る。 「ただいまっ」  ヘイデンが、リオネルの方を見て、にこっと微笑んだ。   「おかえり。」

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