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第9話 ばか!
それからしばらくの間、ヘイデンが遅番の日を除くと、二人はほとんど毎日と言っていいほど、部屋で顔を合わせていた。
早番でも帰ってくるのが遅い日もあるし、深夜勤の時は、ただソファで仮眠をとっていくだけの時もあったけれども。
ただ、自分の使える時間を、最大限ロビンに使ってくれていることに気づいた時、ヘイデンの意外な義理堅さに心底ありがたいと思った。
それとは別に、胸の内がきゅうん、ともした。
――けど。
自室で、リオネルはぬるぬると対峙していた。
実は、こいつとはもうすでに和解し、ほんの一、二回は力を借りてもいた。
もちろん、ヘイデンがいないときに限るけれど。
「――――文句、はないけど……。」
それで、いつものように着替えを用意して、一番細い張り型とぬるぬるとを布に包み(さすがに学習した)、扉を開けた。
「ロビン、おつかれ」
「うん、――ヘイデンも」
ほら、やっぱり。いるじゃん。
扉の脇のチェストに荷物を置いて、ソファに近寄る。
ふと鼻先を何かのにおいがかすめて、ヘイデンの顔を見た。
「ん、どした?」
「ううん。今日、鍛錬してきた?」
「あ、――うん。」
少し間があいたな、と思った。
「えと、……ロビン、俺、におう?」
「ふはっ」
――ヘイデン、そんなこと気にするの!?
おかしくて、お腹の筋肉がひきつれたまま、リオネルは言葉を続けた。
「汗くさいとかじゃないよ。でも、甲冑のにおい?鉄っぽいにおいがしたから、鍛錬帰りかなって思っただけ。」
「――ん」
短く答えたヘイデンの隣に座ると、ヘイデンが少しだけリオネルから距離を取った。
それで、つい笑ってしまった。
「ヘイデン、臭くないってばっ」
そう言って距離を縮めて、
――やっぱり、鉄くさいような、なまぐさいようなにおいがした。
「あー、ロビン。俺、今日顔見にきただけだから、」
「上脱いで」
少し腰を浮かせたヘイデンの腕をとると、その肩が不自然にこわばった。
それで、何かあるな。――そう思った。
「――えっち」
「ばか!」
「ロビン、……それ、痛いよ……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。洗わないほうが後でもーっと痛いよ」
しぶるヘイデンを浴室に追い立てた。
肩口から腕にかけての傷から滲んだ体液が乾きかけている。
リオネルは、そこにきれいな湯をかけて流してから、服を脱がせてやった。
「もう。なんでこんな!こんな怪我してるのに医務課行かなかったの!」
「えー、……だって。」
さては消毒が痛いから避けたな。
「ばか!」
言いながら、濡れてしまった上衣を桶につっこんで、体を拭くための布をヘイデンに手渡した。
「下も濡れちゃったでしょ。まだ上着られないから、それ脱いで、ついでに体洗って、これ巻いといて」
すると、ヘイデンが手渡された布を見下ろして、少し困った顔をするので、なに?と尋ねてみた。
「うん、……ロビン、もうちょい危機感持ってね」
「――――っ」
お前が言うな!
浴室を飛び出してきたリオネルは、少し考えてから、自室へ続く扉を開けた。
ヘイデンの怪我は、ただのすり傷だった。とは言え、傷の範囲が広い。それに前も同じところに怪我をして、治り切っていなかったはずだ。
あのまま服を着れば、それこそ感染症になってしまいかねない。
殺菌作用のある軟膏もあるけれど、――今日はこれだけがいいかな。
常備している救急箱からガーゼを取り出して、リオネルは再び部屋に戻る。
すると部屋では、腰に布を巻いたヘイデンが、自分の濡れた服を苦心してまとめていた。
「ヘイデン、やるよ。かして」
ヘイデンの手元から服を奪って、桶に戻す。
そのまま浴室で水を溜めて、何度かすすいで、また水を張ってから部屋に戻った。
「このまま洗いに出したらいいから。そのほうが汚れが落ちるから」
「へえ、ロビン詳しいんだ。ありがと」
「――うん。」
ヘイデンの部屋に続く扉の方へ持って行こうとしたら、さっとヘイデンに取り上げられた。
「だめだめ。もし俺の部屋に入ったりしたら、襲うからね。あんまり近づいたらダメだよ。」
「――――ばっ……か!」
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