9 / 28

第9話 ばか!

 それからしばらくの間、ヘイデンが遅番の日を除くと、二人はほとんど毎日と言っていいほど、部屋で顔を合わせていた。  早番でも帰ってくるのが遅い日もあるし、深夜勤の時は、ただソファで仮眠をとっていくだけの時もあったけれども。  ただ、自分の使える時間を、最大限ロビンに使ってくれていることに気づいた時、ヘイデンの意外な義理堅さに心底ありがたいと思った。  それとは別に、胸の内がきゅうん、ともした。  ――けど。  自室で、リオネルはぬるぬると対峙していた。  実は、こいつとはもうすでに和解し、ほんの一、二回は力を借りてもいた。  もちろん、ヘイデンがいないときに限るけれど。 「――――文句、はないけど……。」  それで、いつものように着替えを用意して、一番細い張り型とぬるぬるとを布に包み(さすがに学習した)、扉を開けた。 「ロビン、おつかれ」 「うん、――ヘイデンも」  ほら、やっぱり。いるじゃん。  扉の脇のチェストに荷物を置いて、ソファに近寄る。  ふと鼻先を何かのにおいがかすめて、ヘイデンの顔を見た。 「ん、どした?」 「ううん。今日、鍛錬してきた?」 「あ、――うん。」  少し間があいたな、と思った。 「えと、……ロビン、俺、におう?」 「ふはっ」  ――ヘイデン、そんなこと気にするの!?  おかしくて、お腹の筋肉がひきつれたまま、リオネルは言葉を続けた。 「汗くさいとかじゃないよ。でも、甲冑のにおい?鉄っぽいにおいがしたから、鍛錬帰りかなって思っただけ。」 「――ん」  短く答えたヘイデンの隣に座ると、ヘイデンが少しだけリオネルから距離を取った。  それで、つい笑ってしまった。 「ヘイデン、臭くないってばっ」  そう言って距離を縮めて、  ――やっぱり、鉄くさいような、なまぐさいようなにおいがした。 「あー、ロビン。俺、今日顔見にきただけだから、」 「上脱いで」  少し腰を浮かせたヘイデンの腕をとると、その肩が不自然にこわばった。  それで、何かあるな。――そう思った。 「――えっち」 「ばか!」 「ロビン、……それ、痛いよ……」 「だいじょーぶだいじょーぶ。洗わないほうが後でもーっと痛いよ」  しぶるヘイデンを浴室に追い立てた。  肩口から腕にかけての傷から滲んだ体液が乾きかけている。  リオネルは、そこにきれいな湯をかけて流してから、服を脱がせてやった。 「もう。なんでこんな!こんな怪我してるのに医務課行かなかったの!」 「えー、……だって。」  さては消毒が痛いから避けたな。 「ばか!」    言いながら、濡れてしまった上衣を桶につっこんで、体を拭くための布をヘイデンに手渡した。 「下も濡れちゃったでしょ。まだ上着られないから、それ脱いで、ついでに体洗って、これ巻いといて」  すると、ヘイデンが手渡された布を見下ろして、少し困った顔をするので、なに?と尋ねてみた。 「うん、……ロビン、もうちょい危機感持ってね」 「――――っ」  お前が言うな!  浴室を飛び出してきたリオネルは、少し考えてから、自室へ続く扉を開けた。  ヘイデンの怪我は、ただのすり傷だった。とは言え、傷の範囲が広い。それに前も同じところに怪我をして、治り切っていなかったはずだ。  あのまま服を着れば、それこそ感染症になってしまいかねない。  殺菌作用のある軟膏もあるけれど、――今日はこれだけがいいかな。  常備している救急箱からガーゼを取り出して、リオネルは再び部屋に戻る。  すると部屋では、腰に布を巻いたヘイデンが、自分の濡れた服を苦心してまとめていた。 「ヘイデン、やるよ。かして」  ヘイデンの手元から服を奪って、桶に戻す。  そのまま浴室で水を溜めて、何度かすすいで、また水を張ってから部屋に戻った。 「このまま洗いに出したらいいから。そのほうが汚れが落ちるから」 「へえ、ロビン詳しいんだ。ありがと」 「――うん。」  ヘイデンの部屋に続く扉の方へ持って行こうとしたら、さっとヘイデンに取り上げられた。 「だめだめ。もし俺の部屋に入ったりしたら、襲うからね。あんまり近づいたらダメだよ。」    「――――ばっ……か!」

ともだちにシェアしよう!