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第15話 恋人
「寝起きにいいご褒美もらっちゃった。」
服についたリオネルのよだれを気にしたふうでもなく、持ち上げたリオネルを自分の足の上に座らせて、ヘイデンが言った。
「や、ごめん。寝てんのかどうか確かめようとしただけなんだけど――」
「俺がなんかしたんでしょ、ごめんね」
「――いや、別に謝られるようなことないよ」
じゃあよかった。
そう言って笑うヘイデンに、リオネルはなぜだかほっとした。
「――あー、ここんとこ、……来られなくてごめん。」
まっすぐヘイデンの顔を見られなくて、ふわふわの髪の毛を眺めながらリオネルは言った。
「うん。忙しかったん?体調大丈夫?」
「あ、――うん、それは平気。ありがとう。――ヘイデンは?」
よかった。突っ込まれなかったし、ヘイデンから体調のことを話に出してくれた。
そう思って、リオネルは一番聴きたかったことを口にした。
できるだけ、わざとらしくならないよう、――ついでの質問に聞こえるように。
「うん、元気だよー」
「そ……っか。――なら、よかった」
なんか、もっと――ないのかな!
そう、もどかしい気持ちを抱えつつ、それ以上踏み込むこともできずにリオネルは言葉を返した。
それで、ようやく今の姿勢のおかしさに気がついて、慌てて腰を上げた。
「ごめん、ずっと乗ってた」
「えぇ、いいのに。」
呑気なことを言うヘイデンを放っておいて、床に腰を下ろして、ヘイデンと同じように寝台にもたれる。
寝台は、少し硬くて、もたれるのにちょうど良いようには思えなかった。
それで、慎重に先ほどの質問を引っ張りだす。
「元気なら、――何でこんなとこで寝てたんだよ。びっくりするじゃん」
隣のヘイデンを覗き込むように聞くと、ヘイデンはあからさまにリオネルとは反対の方を向いた。
「――ヘイデン?」
いつもならすぐに答えが返って来るヘイデンが、あさってを向いたまま黙っているので、不思議に思って、体ごとヘイデンの顔を覗き込むと、ヘイデンは少しだけ唇を突き出した子供っぽい顔をして、そっぽを向いていた。
「……どうしたん……」
「……だって」
重ねて聞くと、いつもよりずっと小さな声で、ヘイデンがぽそぽそと答えた。
「ロビン来ないから……」
「うん」
だから?
先を促すつもりで相槌を打つと、ヘイデンがさらにリオネルから距離を取って、続けた。
「ここならロビンが、使ったことあるかなぁと思って」
ここを、リオネルが使ったのは……。
「――――――!!」
ヘイデンがどこまで何を察しているのかもわからず、リオネルは何も言葉が出てこなかった。
しばらく沈黙に支配されていた部屋は、ヘイデンがリオネルに向き直ることでまた空気が動き出した。
「ごめん。俺キモくて」
「別に」
つい反射的に答えて、それから、もう少し言葉を足すべきだと思って、リオネルは続けた。
「そんなことないよ。――ヘイデンも、ソファなんかで寝ないで、ここ使ったらいいじゃん、昼寝の時とか」
「それってさ」
ヘイデンが、思いの外静かな声で言う。
「ロビンは、俺の寝た後、ここ使うことになるけど、いいん?」
いつのまにか、ヘイデンとまっすぐ目があっていた。
「ロビンは、もうちょい危機意識持ってね。――俺、ちゃんとロビンのこと恋人と思ってるからね。」
――危機意識。
言われた言葉の意味をすぐには掴みかねて、黙っていると、ヘイデンがリオネルの乗り出した体を見下ろした。
「――さっきのも、俺にはいいご褒美だったし、ロビンのいい匂いもたまんない。
俺は普通に男だから、気を許してる子がこんな近くにいたら嬉しいし、普通に手も出したくなる」
「俺だって男だよ」
この答えがあっているのかわからなかったが、ヘイデンから「お前は違う」と言われている気がしたので、主張してみた。
「――知ってるよ」
リオネルの答えに、ヘイデンは少しだけ寂しそうに笑った。
「そうじゃなくて、ロビンが俺に気を許してるか、そう言う目で見てるか。
――そーいうこと」
ヘイデンの言葉に、なぜか急に身体中の血管が開いたような感じがした。
ふつふつ泡立つような緊張感が、肌からぞくぞくと伝わっていた。
思わず背筋を伸ばしたリオネルを見て、ヘイデンも少し姿勢を直した。
「――触っていい?」
いつもなら「いいよ」と答えるところ、なぜかそうは答えられなくて、ヘイデンの目を見上げる。
「どこを?」
すると、――そのリオネルの返事に天を仰いだヘイデンが、あー、失敗。そう呟き、――少ししてからまたリオネルに向き直った。
「どこならいい?ロビン」
「――どっ……どこって」
ずるい聞き方だな!
そう思ったものの、リオネルの答えを楽しみそうに待つヘイデンに、そんな毒気はすぐに抜かれてしまった。
「……変なとこじゃなきゃ、いいよ」
それで、その答えに少しの間じっとしていたヘイデンは、その笑顔のまま言った。
「ロビンたら、――えっち」
「ばか!」
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