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第14話 西日さす

 ヘイデンが倒れた日から10日。  リオネルは、一度もあの部屋の扉を開けられずにいた。  ヘイデンの扉に鍵をかけるかどうか迷った日。  ――結局リオネルは鍵をかけることはできなかった。  ヘイデンの訪れを拒否したいわけではない。  ただ、この部屋にきたとしても、ヘイデンには自分のためだけに時間を使ってもらいたかった。    リオネルが毎日この部屋を訪れていた時でも、ヘイデンはいつだってマイペースにこの部屋でくつろいでいた。  だから、自分が来ないだけでも、この部屋で十分ヘイデンの休息時間を作れるはずだと考えたのだ。  ――ひさびさに会ったら、なんて言ったらいいんだろう。  ヘイデンの顔を見たら、体調を心配する言葉をかけてしまいそうだった。    それでは、ロビンがヘイデンの体調不良について知っている人間だとバラすようなものだ。  正直嘘が得意な方ではないリオネルにとって、この局面はかなり難しいものだった。  ふぅ、と、大きく息を吐いて、心を決める。  ロビンは忙しかった。忙しくて、このところ部屋に――、寄る時間を、取れなかった……。  ロビン……、最低。  自分だけどな!――そう考えながら、扉のドアノブに手をかけ、扉を開けた――――。 「――ヘイデン。」  ヘイデンは、西日差す部屋の中にいた。  ソファではなく、寝台にもたれかかるようにして、眠っていた。 「……ヘイデン?――大丈夫?」  慌てて駆け寄り、近くで様子を確認する。  首すじに触れ、脈を観る。    脈拍、呼吸、――正常。熱は、ない。汗、は少し。 「――っ」  首すじに当てた手を、大きな手に掴まれた。 「――ぃ……?」  ヘイデンの口から、小さく声がこぼれ落ちて、聞き取れなくて耳を寄せる。   「え、何?――っ!」  そのまま、ヘイデンの体温に体が包み込まれ、  気持ちの良さそうな寝息が聞こえて、  ――――リオネルはしばし硬直した。  まるでヘイデンに覆い被さるような格好で近づいてしまったリオネルは、目の前に迫ったヘイデンの首すじからできるだけ遠ざかるように腰を上げ、 「――んん、……」  寝ぼけているのか、まだ口の中で何やら言うヘイデンの腕に、今度こそ体を巻き取られ、リオネルは体重をかけてもたれかかる格好になってしまった。  ヘイデンの寝息が、自分のつむじにかかっている。  時々、大きく息を吸っては、吐くので、つむじにかかる息がくすぐったかった。  巻きついた腕は、少し重たくて熱い。  近づいたからわかる、ヘイデンのにおい。  怪我の気配はなくて、少しの汗と、太陽を浴びた土の、温かい香り。  ……まじかよ。  眠っているのなら、できるだけ起こしたくない。  ただ、こんなふうに寄り添うつもりもなかった。  思いがけないことの連続で、リオネルの心臓は縮み上がり、痛いほど大きく跳ねているのがわかる。  それでも、落ち着いた寝息を聞いていると、この眠りを出来るだけ妨げたくないと感じて――、  リオネルは、体の力を抜いた。  しばらく付き合おうじゃないか。  ――ふと、急降下する感覚に見舞われ、リオネルは支えにしがみついた。 「っ――――!」  びっくりして目を開くと、目の前には薄闇に染まった寝台のシーツ、それから、ふわふわの髪の毛。 「――あ、起きた?ロビン」  何が起きたのか分からずにいると、ヘイデンに少し持ち上げられて、顔を覗き込まれた。 「起きた?まだ寝てる?――あ」  落ちる!と思った時の驚きがまだ続いていて、リオネルの脈はまだとび跳ねていた。  へらっと笑ったヘイデンが、ヘイデンの体にくっつけていた方のリオネルの口元をなぞり、水気を拭った。 「――――!」  びっくりして自分でもそこに手をやると、 「うわ、……ごめん。服についた」 「洗えばいーんじゃない」  ――よだれ垂らして寝てた……!!!

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