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第18話 ワンペナ!
それから、――二人の間では少しだけ変わったことがあった。
もしかするといくつかは、ただ気づいていなかっただけなのかもしれないけれど。
例えばヘイデンは、部屋に入ってくる時、扉を少しだけ開けて、ロビンの名前を呼んでから入ってくるようになった。
リオネルは、二人並んで座る時に、少しだけ間を詰めるようになった。
リオネルが距離を詰めたことに気づくと、ヘイデンはリオネルの顔を見て、目が合うと、嬉しそうに笑う。
――正直、そんな笑顔は反則だなあと思うのだけど、何がどう反則なのかはわかっていない。
ヘイデンは相変わらず管理官の教えを守っているし、リオネルもちゃんと教え通りに準備を進めている。
だから、これまでほど毎日会えるわけではなかった。
ただその分、ここでの時間が、ちゃんと恋人みたいになっていた。――そう思う。
「あのさ、ヘイデン」
「――うん?」
その日も部屋にやってきて、いつも通り――これも、変化の一つかもしれない――、リオネルの手をむにむにと揉みながらくつろぐヘイデンに、声をかける。
「ヘイデン、今夜深夜番だろ?」
「うん。」
「じゃあ、今日は、早めに寝てきてほしいな」
むにむにがとまって、ヘイデンがこちらを見た。
「――うん、……なんでか聞いてもいい?」
やばい。
ヘイデンのしょんぼりした顔に、口元の緩みが抑えられそうにない。
深呼吸して、ヘイデンの手を握り返す。
「で、さ。――明日」
ダメだった。
リオネルは、口元が緩むのを抑えきれないままで、ヘイデンに言った。
「おやすみになったから、お昼ごはん、ここで食べない?お昼デートしようよ」
「する。俺帰るね」
「ぷっは」
嬉しそうに両腕を広げて待つヘイデンに、リオネルもくっついてみる。
ヘイデンを見送る時の挨拶――みたいなもの、は、まだ少し慣れない。
いつもより強めに抱きしめられて、「おやすみ、また明日」と言われるのは、
――率直に、悪くなかった。
「おやすみ。また明日ね」
それで、ヘイデンには早く寝るように言っておきながら、自分はなかなか寝付けなかったことは、内緒の話だ。
「お邪魔しまーす」
扉を少し開けてそんなことを言うヘイデンに、リオネルは笑って応えた。
「うん、いらっしゃい。お疲れ様」
午前中のキラキラした光が差し込む室内で、ヘイデンは少し眩しそうな顔をしていた。
「朝、――少しは寝られた?」
「ん?うん。ばっちし」
リオネルの質問に、嬉しそうに頷くヘイデンに、それならよかったと胸を撫でおろす。
朝のうちから、本当はここで休んでもらえたら一番良かったのだけれど、
もう、リオネルはこの部屋の寝台をヘイデンに使わせようとするような、無神経なことを言う気にはなれなかった。
「お腹空いてる?」
「めっちゃ。あ、――これ買ってきたよ」
ヘイデンが後ろ手に持っていたものを差し出したのを見て、リオネルは歓声をあげた。
「シャーベット!え、しかも冷えてる!」
「俺凍らせんのとか冷やすの得意だからね」
「やったー!ヘイデン、愛してるー!」
暑くなってきたこの時期、思いがけないごちそうの登場にリオネルは心底嬉しくなってしまった。
うきうきした気持ちのままシャーベットに釘付けになっていると、ヘイデンの声が上から降ってきた。
「ロビン、それは反則」
ついと上を見上げると、ちょっと唇を尖らせたヘイデンがリオネルの顔をひょいと覗き込んだ。
「ワンペナ。三回たまったらちゅーしちゃうぞ」
「――なにが?!」
ヘイデンが指を一本立て、その指を、そのまま自分の左胸に刺す。
「愛してるとか、言ったらダメー」
「っ――あ」
迂闊な自分の言葉に今更気づくと、どっと心臓が揺れた。
かたまりかけたリオネルに、ヘイデンがたたみかけた。
「三回刺されたら俺の自制心死ぬからね」
「ふ、……あはは!」
笑いごとじゃないからねー!というヘイデンにごめんごめんと返しながらも、リオネルは笑い声を止められなかった。
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