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第20話 またね

 結論から言うと、お昼デートはとても楽しかった。  ヘイデンはなんとか自分を取り戻して、ちゅうをすることはなかったし、リオネルももちろんしなかった。    ただ、「またね」の挨拶は、いつもよりちょっとだけ長かったし、  ――もしかすると、頭にキスくらいは、されていたかもしれない。  リオネルも、それくらいならしてもいいかな、と思えていた。  つまり、その程度には浮ついていた。    ――この時は。 「リオネル……いまいい?」    急にかけられたヘイデンの声に、リオネルはあの部屋にいるわけでもないのにどきっとした。  ――ワンペナだ。  リオネルが慌てて振り向くと、処置室の窓から騎士服と装備を身に付けたヘイデンが顔を覗かせた。 「うん、いいよ。どうしたの?」  立ち上がって窓に近寄ってみると、ヘイデンが思ったより重装備なことに気がついて、リオネルは驚いた。 「――どっか行くの?」  その質問に、ヘイデンが軽く頷いて、頭をかいた。 「今から、夏の恒例、繁殖期対策の遠征」 「――あぁ……、あれ」  魔獣駆除は例年行事のようなものだ。  春、冬眠明けの魔獣を一旦駆除して、  夏には子育てでカリカリしているところを警戒する。  秋の終わり、冬ごもりの支度で活発になるのを叩いて、冬の間がひと休み。  つまり、夏の恒例行事は、魔獣駆除ではなくて、魔獣警戒だ。 「――結構長いことかかるやつだね」 「そーなんだよね。なのに、今朝急に準備しろって言われてさ」 「え、……急すぎない……?」  驚いて声を上げたリオネルを見上げて、ヘイデンが言った。 「ひどいっしょ。とにかくもうすぐ出るらしいんだけど、その前に。遠征用の備品利用報告出しにきた」  ヘイデンが手に持つ書類を受け取り、中を改める。   「うん、確かに」    少しだけ字は汚いが、読めないわけではない。  問題ないことを確認してヘイデンに頷いてみせると、ヘイデンが「それから」と言葉を続けた。   「――ん?」  ヘイデンはへらっと笑うと、リオネルに言った。 「こないだ、俺がぶっ倒れた時。リオネルがいてくれたでしょ。ありがとうね。あと、迷惑かけてごめんね」 「――あ、ううん。お礼なら、ヘイデンの先輩さんが、サミュエル先生にちゃんとお伝えしてくれたと思うよ。」  そういうと、ヘイデンは少しだけ唇をきゅっとさせてから、また普通の顔に戻った。  ――あ、これは相当叱られたんだな。 「――うん。でも俺、ちゃんとお礼言っときたかったんだよね。  だからその、用事があって、良かった。」  それでリオネルはなぜだか、鳩尾のあたりがモヤッとするような、きゅっとするような、なんだかよくわからない感じになった。 「ん、――わざわざありがとう。」  なぜそんな感覚になるのかよくわからないまま、ひとまずヘイデンに返事をした。 「お礼、するくらいなら、ちゃんと手当受けにきてね。  遠征先でもちゃんとしてもらいなよ。ヘイデン怪我ばっかしてるんだから。」  そう言うと、ヘイデンが少し唇を尖らせてから、控えめに頷いた。 「――うん。じゃ、あんまり時間ないからもう行くね。……またね、リオネル」 「うん。――気をつけて。……気をつけて行ってきてね。」  それで、ヘイデンは重たそうな装備をガシャガシャ言わせながら、そのまま走って行った。  ふわふわの髪の毛も遠ざかっていく。  ――後ろ姿に、2ペナ目。  それから、リオネルは窓枠に手を乗せたまま、ずるずるとしゃがみこんだ。    ――何してんの俺。

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