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第22話 宵闇

 それからしばらくの間、リオネルは自分のすべきことがわからなかった。  仕事は、した。  食事も、眠りも、いつも通りに。  何かが、ぽっかり空いている気がするのに、どこが空いているのかがわからない。  いや――  わからないのは、その理由だけだった。  ヘイデンに会えない寂しさなのか。  それとも、自覚したその日に失った、――行きどころのない気持ちのせいなのか。  引き出しを開けられなくて、部屋にも行かないまま、一週間が過ぎた。 「リオネルくん、体調良くないの?」 「――え?」  いつも通りに腰痛の処置をして、経過をカルテに書き込んでいると、食堂のおばさんからそう尋ねられた。 「最近食欲ないでしょう。みんな心配しているのよ」  トレイにとった食事の量を確認するのは、食堂部のちょっとした気配りだ。  騎士達は体が資本。摂食量の増減は、過度になると医務課にも共有される。 「あー……、ご心配おかけしてすみません。――夏バテかなあ」 「やっぱり。――さっぱりしたメニューも用意し始めてるから、食べられるものから、ちゃんと食べなきゃダメよ。」 「ありがとうございます。……気をつけますね。」  おばさんには笑ってみせたが、さっぱりしたものなら食べられるのかどうか、自信はなかった。  おばさんの背中を見送り、ため息をつく。  自分がいつも通りでないことはわかっていた。  ただ、態度には出していないつもりでもあった。 「……むりかぁ」  ロビンを閉じ込めておくのは、無理そうだった。  その日の夕、食堂では果物を貰って自室に戻り、リオネルは扉の前に立っていた。  おそらく、ヘイデンが戻ってくるのは、交渉まで間もない頃。  決めたじゃないか。  自分のことを大切にするのが、ヘイデンの誠実さに応えるためには必要だって。  わかってたじゃないか。  ヘイデンの大切にしているのが誰だとしたって、それに応えられるのは、自分しかいないってこと。  ドアノブに手をかける。  宵闇に沈む無人の部屋が、ロビンのことを出迎えてくれた。    窓の向こうに、夕焼けの沈む空が見えた。      いつもの通りに荷物を置いて、自室から持ち込んだ灯りを部屋に灯していく。  ヘイデンの部屋の扉まで来て、何もかかっていないフックに指で触れる。  ヘイデン以外の誰も開けられない扉。  少しの間たちどまって、それから、そのままにしておいた。  管理課の扉にはいつも通りリースがかかっていて、それを見てから、リオネルは寝台に腰掛けた。  怖々と始めた準備も、今では、真ん中の太さの張り型ならちゃんと押し込めるようになっていた。  次の二本は、少しだけその形が本物っぽくて、率直に怖気付いては、いた。  香油を手に取り、それから四本目を手に取り、寝台に並べる。  リオネルは、体を清めるために、浴室へ向かった。   「――――っ、」  ぬるぬるの力を借りても、四本目はリオネルの中に押し込めるのには難しかった。  もう少し正確に言うと、押し込める手が、止まってしまった。    坐薬と、一緒だ。    そう言い聞かせて息をはき、できるだけ力を抜いて、ぐっと押し進める。  一番初めの太いところ、ここが入ったら、多分大丈夫だから。 「――――った、あっ!」  押し込んだ途端に、反射的に体がこわばった。  そのせいで体の角度が変わり、また別の痛みがリオネルを襲った。   「――――っぅぅう……」    無理に開かれた入り口の、あまりの痛みに息を飲む。  恐る恐る体を横に向けて、少し体を丸くした。  なるべく体の力を抜いて浅い呼吸を繰り返していると、だんだんその痛さに馴染んできた。    痛いのは、――痛い。  でも、まだこれで終わりじゃない。  多分、本当に痛いのは、もっと、ずっと後なんだと思えば、  これくらいなら、――我慢できるはずだ。 「――痛いなぁ……」  その、一番の痛さを想って、――やめた。  覚悟したって、  痛いのは、痛い。  少し鼻をすすって、リオネルはまた、張り型に手を伸ばした。  ――せめて、  頭を撫でてくれる手が、あったらよかった。  

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