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第25話 好きだな
「ロビン、もう夜遅いから、ちゃんと寝台で寝な」
大きな手のひらで、頬をぬぐいながらヘイデンが言った。
それで、自分がソファで眠ってしまっていたのにようやく気づく。
「ああ、――首、痛いと思った」
「だめじゃん!ほら、おいで」
腕を広げられたので、素直に体を預ける。
すると、背中と膝の下に腕を差し入れられて、ひょいとヘイデンに持ち上げられた。
「え、――え?!」
急に高くなった視点に驚いて抱きつくと、
ふわふわの髪の毛が鼻先をくすぐって、ヘイデンの胸がまたくつくつと揺れた。
「はい、おろすよ」
そうっと下ろされた先は寝台で、ヘイデンは腰をかがめて、上からリオネルの顔の目の前に顔を寄せた。
「ちゃんとしたところで寝なきゃだめだよ」
「――ヘイデンは?」
思わず口をついて出た言葉に、ヘイデンは少し得意げに笑う。
「俺がソファで寝るのはいいんよ。変なとこで寝るのも訓練だからね」
「そうじゃなくて」
寝台の上についたヘイデンの手に、手を重ねる。
「ヘイデンは、……どうするの?」
ぱかっと口を開けて、ヘイデンが固まった。
びっくりしたように、少し腰を引いて、それから頭を下げて、大きく息を吐いた。
「――――汗流して、寝るよ」
それは、多分、ここではないところで。
――あたりまえだ。
けど、
ヘイデンの手に重ねた手を、少しだけ、握りしめた。
「もう寝る?」
ヘイデンの頭がかすかに揺れる。
「――俺、我慢大会してる?」
「ふ、ふはっ……。――してくれる?」
「――――ロビン〜〜」
寝台から身を乗り出して、しゃがみ込んでしまったヘイデンの髪の毛を少しだけひっぱる。
「そこで洗っといでよ。――頭拭いてあげる」
重なったヘイデンの手が、ひっくり返されて、リオネルの手のひらを握った。
「ん」
ぎゅう、と握られて、胸の内側も同じくらい強く握りしめられた。
ヘイデンが体をきれいにしている間、リオネルは窓の外を眺めていた。
真夏の夜、窓をあけていると、外から涼しい風が入ってきて、少し冷えるくらいだ。
「体冷やすよ」
振り返ると、借り物のガウンを身につけたヘイデンがいた。
急いで出てきたのか、腰の紐が適当で、前が大きくはだけていた。
「ヘイデンも、お腹冷やすよ」
「――やだ、えっち」
「ばか。――おいでよ、結んだげる」
少し、その場で見つめられて、それからヘイデンが近づいてきた。
「あ、涼しい」
「うん」
窓のそば、リオネルの前に立ったヘイデンの腰紐を解く。
それから、ガウンを一度大きく開いて、――開こうとして、ヘイデンに両腕を掴まれた。
思わず、体が跳ねた。
ヘイデンの手のひらは熱くて、どっと心臓が音を立てた。
お互い、何も言わずそのまま風にあたっていると、
部屋は静かで、握られた腕から、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思った。
「――ロビン」
じっとこちらを見つめる、ヘイデンの目。
「――俺、今何するかわかんない」
ヘイデンの声が、いつもより固かった。
口の中にたまったつばを飲み込んで、尋ねる。
「……どうして」
なんとか絞り出した声は、小さくて。
それでも、ヘイデンには届いたようだった。
「遠征で長いこと会えなかった恋人に、――会えなくてもいいけど、もしも会えたら嬉しいなって、来たら」
途中で言葉を止めたヘイデンが、ごくりと喉を鳴らすのが聞こえて、
リオネルは、手にしたヘイデンのガウンを、ぎゅっと握りしめた。
「ソファですやすや眠ってて、しかも、起きたら泣いて抱きついてくれた。――よね?」
阻害されているから、――表情はあまりよくわからない。
以前にそう、聞いたことがある。
「泣いてない」
だから、泣いてなんていないことにした。
――しようとしてみた。
ヘイデンは、喉だけで笑って、軽く、リオネルの腕を引いた。
それで、自分から、ヘイデンにくっついてみる。
「離れたくないって、かわいいこと言ってくれて」
そのまま、抱きしめられた。
ヘイデンの肌は少ししっとりしていて、リオネルが開きかけたガウンから、ヘイデンの腰と、左脚がのぞいていた。
――石けんと、それから、お日様にあたった土の匂い。
外の風で冷やされたリオネルの背中に、ヘイデンの腕がまわって、その熱に、リオネルの体がぞくぞくと震えた。
「――へ、ヘイデン」
「ごめん、俺もう、こんなだから」
ぐいと、押し付けられた腰の、確かな熱と硬さに、
――息が、できなくなった。
耳元でヘイデンが言う。
「お願い。俺のこと、帰らせて」
その、熱っぽい声に、目をつむって聞き入って。
それから、小さく頷いた。
「うん。……ありがとう。」
ヘイデンの腕が離れて、頭を撫でられた。
それが、好きだな。
そう思った。
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