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第27話 道
ヘイデンが、喉の奥でうめいて、それから腰の動きを止めた時。
そこが痛かったかどうかなんてことは、正直覚えていない。
だけど、全く何も感じなかったわけは、なかった。
リオネルは、ひとまず押し込めていただけで、――出し入れする練習はしていなかったし、
張り型と違って、熱い熱の塊が入ってくるのは、なんだか圧迫感がすごかった。
つまり、そういうのが残るものなんだと、思っていた。
ヘイデンがうめいて、なぜだか、ずっと空いていた隙間をぽんと埋められた感じがして。
――道が、できたんだな。そうすんなりと感じた。
これでおしまい。
だけど、確かにリオネルは、ヘイデンとつながった。
浅く、短い息をなんとか整えて、ヘイデンの背中にしがみついていた腕を下ろして、その肩に手を添えた。
頬をすり寄せて、顔を上げてもらって、
束ねた髪の毛が、少し、ほつれて、
――ヘイデンのことを、かっこいいなあ。そう思った。
そんなの、いまさらだった。
そう思ったらなんだかおかしくて、ヘイデンの顔をそうっと引き寄せて、キスをした。
触れるだけの、かわいくて、あたたかくて、
――最後の、しあわせなキスだった。
何をしたって涙が出てくるのは、――諦めることにした。
そのあとは、順番に体をきれいにして、身支度を整えて、それから、管理課の扉からリースを外した。
ノックの音で呼び出された管理官は、淡々とリオネルたちと状況を確認すると、道の確認のために、ヘイデンは浴室へ行かされた。
「――ここに、いたらダメなんですか?」
小さな声で管理官に聞いてみると、管理官から、そっと手拭いを差し出された。
「――――ディッカー殿を、怯えさせたいですか?」
「……え?」
思わず受け取った手拭いと共に、そうささやかれて、思わず聞き返した。
「――多少の痛みなどは、ありうるでしょう。あなたが反応してしまうことも。
どのディッカーも、――ご自身のウルラの苦痛を、怯えないわけがないんです」
何も、答えられなかった。
怯えさせたいなんてこと、あるわけなかった。
ただ、――少しでも長くそばにいたかった。それだけだった。
押し黙ってしまったリオネルに、管理官が声をかけた。
「よくあることです。みなさん、はじめの譲渡は不安になられる。――始めましょう。」
それで、手振りで目元を示されて、また涙が浮いていたことを知った。
手拭いで目頭を押さえて、頷く。
――よくあること。
ディッカーとウルラの間では、そうして身を案じ合うことは、よくあること。
この、やるせなさや、胸の痛みや、――気を抜けば泣けそうな気持ちになるのも。
「ディッカー殿」
よくあること。
「一分測ります。はじめてください。」
管理官の言葉に、ヘイデンとロビンの二人が、急に形をなくしてしまった気がした。
わけもなく喪失感が湧き上がって、涙がこぼれた。
涙と一緒に、色々こぼれ落ちてしまいそうで、
泣いてしまいたくなんて、なかったのに。
「――――っ」
しゃくりあげてしまいそうなのを、なんとか押しとどめる。
手拭いに顔を押し付けて、鼻をすすった。
止まれ。
止まれ。
もう、涙よ止まれ。
目を、ぎゅっとつむって、震える喉に、空気を送って。
「一分です、終えてください。」
大きく、吐く。
――もう一度、吸って。
「ウルラ殿」
――――吐く。
「――はい」
呼吸を整えて、手拭いから顔を上げた。
「――何を、……感じましたか」
言われて、気づく。
――何も。
なんの、痛みも、苦しみも。
何もない。
「――なに、も」
何も、残らなかった。
リオネルの、見開いた目から、もう一筋涙が落ちた。
「……何も、わかりません、でした」
リオネルの目を見て、管理官が頷いた。
「――少し、待ちますか」
手拭いに目線を落として問われたので、
もう一度鼻をすすって、顔を押し当てて、それから、目元を手の甲で少し冷やす。
「大丈夫です。」
顔を上げたリオネルを見て、管理官は頷いてから、手元の書き付けに何かを書き込んだ。
「――ディッカー殿、お戻りください。」
管理官の声に、ヘイデンが浴室から戻ってきた。
リオネルの隣に座ろうとして、少し立ち止まって、そのままそこに腰を下ろした。
管理官がいる時に、こうして二人並んで座るのは、初めてだった。
「お二人とも」
管理官の声に、二人でそちらを見る。
「長らくお疲れ様でした。そして、ありがとうございます。
先程の魔力譲渡にて、魔力が十分流れたこと、それから、ウルラ殿の受容耐性に問題のなかったことを確認いたしました。」
管理官の言葉は、明瞭で、澱みなかった。
少し息をついて、それから管理官はなおも続けた。
「これにて、お二人の番いの交渉は成立し、同時に、交渉期間も終了となります。
――――長らく、ありがとうございました。」
これで、おしまい。
もう、涙は出てこなかった。
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