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第28話 おしまい
「それでは、私はこれで退室いたします。ディッカー殿も、――あまり遅くならないうちにご退室ください。」
淡々とそう述べた管理官は、そのまま退室していった。
この日、その扉にリースはかけられていなかった。
「――ロビン」
ヘイデンの声が、二人の間に落ちた。
「うん」
管理官が出て行った扉のフックから、目を離せないままで、ヘイデンに答える。
なんだか、心が凪いでいて、今、もうこれ以上波を立てたくなかった。
「渡したいものが、あるんだけど」
鼻の奥は、まだ少し熱い。
一つ深呼吸をして、それから、口を開く。
「なに?」
左の耳の後ろに、視線を感じる。
そのまま、少し沈黙があった。
「俺、……もう、振られちゃった?」
思いがけない言葉に、息が一瞬止まって、
ヘイデンの顔を振り返った。
少し、こちらの様子を伺うような、顔。
「ちが……」
思わず、口にして、口にしかけて、やめた。
――違わない。
振るのか、振られるのかはわからないけれど、この恋人の期間は、番いになるまでだったから。
喉の奥が、ぎゅううっと詰まって、それ以上言葉にならなくなった。
思わず下唇を噛み締めると、ヘイデンの手が少し持ち上がった。
「触ってもいい?」
どこを?とか、なんで?とか、やだ、――とか。
言うべきだ、と思ったけれど、リオネルは、頷いた。
指の背で、そうっと、目の下に触れられた。
涙のせいで熱をもったところが、ほんのりと冷やされる。
――冷やすの得意だからね。
いつだったかのヘイデンの言葉を思い出して、リオネルは、ヘイデンにされるままに、目を閉じた。
そのまま、じっとしていると、ヘイデンがひそやかな声で聞いた。
「痛く、なかった?」
譲渡のことだろうな、そう感じて、頷く。
「苦しくも、ない?」
頷く。
「――辛くなかった?」
ヘイデンに聞こえないように、薄く、息を吐いて、それから、頷く。
「なんもない。――心配しないで」
なんもないのが、本当はちょっと辛かった。
言わないけれど。
「なんか、――複雑な気持ち。」
ヘイデンの言葉に、目を開けると、困ったように笑う顔が見えた。
「ロビンが、痛いのも、苦しいのも、辛いのもやだけど、――なんもないのは、なんか寂しい」
それで、またじわっときた。
「ばか」
そんなの、――同じだよ。
口にしてはいないけれど、ヘイデンは分かっているとでも言いたげに、リオネルの眼尻を人差し指の背でぬぐった。
「うん、ごめん。俺こんなだから、……わがままでごめん」
頭を振ると、ヘイデンの指がそっと離された。
それで、ヘイデンが胸元から小さな袋を取り出し、中身を手のひらに出した。
小さな石と金属片でできたチャームがついた、細い鎖。
もう一つが、片方だけの、ピアス。
「なんもないなら、――もしかしていらないかもしれないけど。」
そう言ってから、ヘイデンは少し頭を掻いて、またリオネルの顔を見た。
「魔力譲渡する前に、今いいかなって合図するための魔道具。……共鳴具って言うらしい」
「きょうめいぐ」
ヘイデンに、チャームのついた鎖――ブレスレットくらいの――を差し出される。
受け取ってみると、ヘイデンが「いくよ」とささやいた。
「ぅ、――わ」
リオネルの手の中、チャームの金属片がかすかに震え出した。
「譲渡の前には俺、これを震わせるから。譲渡されたら困る時には、これを」
ヘイデンが、チャームを指差す。
「三回、叩いてほしい」
共鳴具の震えが止まり、リオネルはヘイデンの顔を見上げた。
「そのために用意したんだけど。
――でも、もし、使わなくてよくっても、……もらって欲しい。」
いつもより、少し硬い声で言われて、なぜだか心がほっとして、笑顔になれた。
「ヘイデン」
「うん」
「――最後にハグしてくれたら、もらってあげる」
少しだけ笑って、そう言った。
それで、黙って、お互いを、抱きしめあった。
それは、「またね」のハグじゃなかった。
「ありがとう」
――これで、おしまい。
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