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第33話 教え
ひとつ、ひとつ。
少しずつ、傷を治す。
――ばか。冷やすの得意なんだろ。
少し温めた補液を導入しているヘイデンの肌は、少しずつ血の気を取り戻していた。
「リオネル、どうだい」
先生の声に、声だけで返事をする。
「大丈夫だと思います。少し呼吸も落ち着いて来たので、他の傷は普段通りで治癒しますね」
「全部やらなくても。補液が終われば、もう交代してもいいんだよ」
先生に言われて、少し考える。
身体中に散った傷。まだ、無数にある。
次の傷に指を当てた。
「――僕がみていても、いいですか」
先生が、息を吐くのが聞こえた。
「君の知り合いだったね、その子」
「……はい」
「ついていてくれていいけれども、――ちゃんと休みなさい。目が覚めた時に、君が疲れた顔をしていたら、患者さんが気に病むからね」
マルセルさんにお夕飯とかお願いしておくから。
そう言って、サミュエル先生は処置室を出て行った。
リオネルは、次の傷口に人差し指を置いた。
「術師さん」
呼ばれて、顔を上げた。
長いこと、ヘイデンの傷を癒しては、なぞっていた。
「――すみません、今少し手が離せないのですが」
「ああ、治癒中ですかね。続けてください、邪魔してすみません」
「いえ、何か、ご用事ですか」
「あー……、その、そこに寝てるロビンくんの上官です」
「――――え?」
「え?いや、なので、その子の上官なんですけど、――少し入ってもいいですか。」
上官だという人の、言葉が頭の上を滑っていって、
――ロビン?
「――どうぞ」
ヘイデンの顔を、見つめてしまった。
「ロビンくん大丈夫ですかね。彼、今日うちに配属されたとこで、こんなことになっちゃうとは、かわいそうなことをした」
ヘイデンが眠る寝台の隣まで来たその人は、少し軽薄そうな面立ちをした若い男性だった。
ただ、身につけた装備の質感から、ただの騎士ではないことは察せられた。
「今日配属だったのですか」
「――うん。若いのにくたびれた子だなって思ったんだけど。
――術師さん、この顔くたびれてるよね?」
言われて思わず顔を見上げて、またヘイデンの顔を見る。
――くそ、またペナルティ。
なんでこんな時にかっこいいなんて思うのか。
「……わかりませんっ」
「えー、そう?まあ寝てたらわかんないよねー」
そう言った上官殿は、もう一度ヘイデンの顔を覗き込んでから、リオネルの顔を見て、言った。
「ロビンくんさ、魔力の制御トばしてこんなんなっちゃったの。――あ、うち、特殊室。ディッカー達の師団ね。
医務課さんなら知ってると思うけど、ディッカーはウルラに魔力預けるでしょ」
確かに。
先日、サミュエル先生から、ディッカーとウルラのこと、特にウルラとなった人への医療提供時の注意点と、管理課との連携について説明された。
「多分こいつ、預けた方の魔力を後出しにしたからこんなことなったんだよね。」
「あとだし……」
急に言われた言葉に、すぐにはついていけなくて、ただ繰り返した。
「そ。預けてる魔力の方が、やっぱり取っときたくなるんだろうけど。
預けてるだけに残量わかんないから、急に魔力切れすんだよね。」
上官殿が、またヘイデンの顔を見下ろす。
「――わかるんだけどさ。こんな大怪我されたら、ウルラの子の方がたまんないよね。
自分と番わなきゃよかったんじゃないかなんて、考えかねないじゃん」
そんな危険があるだなんて、
――考えたことも、なかった。
思わず顔を上げたリオネルに、上官殿が気づいて笑う。
「――ああ、だから、こいつ起きたら叱ってくださるととっても助かります。
ディッカーが自分のことも守れないで、ウルラを守れるなんて思うな!って」
そんなの、
――そんなの、無理だ。
「自分の――、自分の資本を軽々しくしか扱えない騎士は、……早くに自分を使い潰す。」
「ん?」
先生の口癖を、唇にのせる。
「医務課の、モットーです」
「あぁ、……それ、いいね」
笑う上官殿に、リオネルも頷いた。
「起きたら、――お伝えしておきますね。」
うまく、話をできる自信はなかったけれど。
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