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第36話 夜明け

「ごめん。怪我人の立場を悪用しました」  ヘイデンはそう言うと、ぱっとリオネルから手を離して、顔を上げた。  でも、その体勢のまましばらく動けなくて固まっていると、ヘイデンの声が降ってくる。 「リオネル、顔赤いよ。――かわいすぎるんだけど」 「――――ばか」  肩からずるずると手が滑り落ちて、頭も下がる。  目の前に、ヘイデンの鎖骨と、それから―― 「リオネル、そろそろ離れて。これ以上は男には生殺し」  首から下がる革紐に通された、金属の輪っか――ピアス。  共鳴具だ。  さっと血の気が引いた。 「ごめん、力が抜けた」  体を起こして、手を離して、それから、隣に置いていた前開きの羽織りを手渡す。 「傷はもう塞がってるみたいだから、これ着て」 「うん、ありがとう。傷、結構ざっくりやってたよね俺。なんでこんなに綺麗になってるの?」  リオネルから受け取って、それを羽織るヘイデンを目に入れないようにしながら答える。 「大きな怪我は、意識がないうちに治癒術で治すんだよ。めちゃめちゃ痛いから。」  ヘイデンも叫んでた。  そう言うと、ヘイデンがびっくりした顔でこちらを見た。 「すごいね……、ごめん、ありがとう」  いつだって、あんな叫び声は心臓に悪いけれど、今日のは特にひどかった。 「先輩たちかな、連れて来てくれた人たちに聞いてみて。自分がどんなだったか。  ――僕らはまだ慣れてるけど、知らない人はびっくりしたと思う」  羽織った服の細い紐をもたもたと結ぶヘイデンに、リオネルが代わってやる。 「もう大丈夫そうだけど、朝まで寝ておいて。  それから、多分体が疲れ切ってるから、しばらくは安静にってことになると思う。それも、明日診察受けてからだけど」 「――リオネルは?」 「ん?」  ヘイデンが少し笑って、もう一度言った。 「リオネルは、どうするの?」  少しだけ、胸がざわめく。 「――大丈夫、ここにいるよ。」  ざわめきを吹っ切るように、寝台の足元からブランケットをひっぱり上げてやる。  大人しく横になったヘイデンの胸元までかけてやると、ヘイデンがそこからひょいと手を出した。 「――っふふ」 「リオネルも、少しは休んでね。」  思わず手を握ってやると、ヘイデンがそんなことを言うので、きゅっと握りしめた。 「怪我人はそんなこと気にしないで、体休めなさい。  ――おやすみ」 「うん、おやすみ」  やがて、部屋の中には静かな寝息と、ろうそくの日が揺れる音だけが息づいていた。  ふと気づくと、部屋の中は薄明るくなって、外から生まれたての光がリオネルたちを覗き込んでいた。  ヘイデンの寝息は深く、繋がれた手は暖かかった。  番ってから初めて、共鳴具の震えなかった日の夜明け。  ヘイデンとロビンの繋がりを目の当たりにしても、    リオネルはまだ、ヘイデンに恋をしていた。  

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