36 / 48
第36話 夜明け
「ごめん。怪我人の立場を悪用しました」
ヘイデンはそう言うと、ぱっとリオネルから手を離して、顔を上げた。
でも、その体勢のまましばらく動けなくて固まっていると、ヘイデンの声が降ってくる。
「リオネル、顔赤いよ。――かわいすぎるんだけど」
「――――ばか」
肩からずるずると手が滑り落ちて、頭も下がる。
目の前に、ヘイデンの鎖骨と、それから――
「リオネル、そろそろ離れて。これ以上は男には生殺し」
首から下がる革紐に通された、金属の輪っか――ピアス。
共鳴具だ。
さっと血の気が引いた。
「ごめん、力が抜けた」
体を起こして、手を離して、それから、隣に置いていた前開きの羽織りを手渡す。
「傷はもう塞がってるみたいだから、これ着て」
「うん、ありがとう。傷、結構ざっくりやってたよね俺。なんでこんなに綺麗になってるの?」
リオネルから受け取って、それを羽織るヘイデンを目に入れないようにしながら答える。
「大きな怪我は、意識がないうちに治癒術で治すんだよ。めちゃめちゃ痛いから。」
ヘイデンも叫んでた。
そう言うと、ヘイデンがびっくりした顔でこちらを見た。
「すごいね……、ごめん、ありがとう」
いつだって、あんな叫び声は心臓に悪いけれど、今日のは特にひどかった。
「先輩たちかな、連れて来てくれた人たちに聞いてみて。自分がどんなだったか。
――僕らはまだ慣れてるけど、知らない人はびっくりしたと思う」
羽織った服の細い紐をもたもたと結ぶヘイデンに、リオネルが代わってやる。
「もう大丈夫そうだけど、朝まで寝ておいて。
それから、多分体が疲れ切ってるから、しばらくは安静にってことになると思う。それも、明日診察受けてからだけど」
「――リオネルは?」
「ん?」
ヘイデンが少し笑って、もう一度言った。
「リオネルは、どうするの?」
少しだけ、胸がざわめく。
「――大丈夫、ここにいるよ。」
ざわめきを吹っ切るように、寝台の足元からブランケットをひっぱり上げてやる。
大人しく横になったヘイデンの胸元までかけてやると、ヘイデンがそこからひょいと手を出した。
「――っふふ」
「リオネルも、少しは休んでね。」
思わず手を握ってやると、ヘイデンがそんなことを言うので、きゅっと握りしめた。
「怪我人はそんなこと気にしないで、体休めなさい。
――おやすみ」
「うん、おやすみ」
やがて、部屋の中には静かな寝息と、ろうそくの日が揺れる音だけが息づいていた。
ふと気づくと、部屋の中は薄明るくなって、外から生まれたての光がリオネルたちを覗き込んでいた。
ヘイデンの寝息は深く、繋がれた手は暖かかった。
番ってから初めて、共鳴具の震えなかった日の夜明け。
ヘイデンとロビンの繋がりを目の当たりにしても、
リオネルはまだ、ヘイデンに恋をしていた。
ともだちにシェアしよう!

