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第41話 ふたり
驚いた上官殿が、なぜだか謝って部屋を出てしまっても、リオネルは顔をあげることができなかった。
手にした桶をヘイデンに取りあげられて、手を取られて、寝台に座らせられる。
ヘイデンが、その前にしゃがみ込んで、リオネルの顔を見上げた。
「――ごめんリオネル。ほっとけなかった」
それで、ヘイデンは今気づいたんじゃない、ということに気がついた。
ヘイデンの顔を見られなくて、繋がれた手を見つめた。
「いつから、……気づいてたの?」
ちょっとだけ手をゆらされて、目線を上げる。
リオネルと目を合わせたヘイデンが、少し唇を尖らせて、それから言った。
「リオネルが、ネロさんに絡まれてた日。――ロビンが俺につけてくれたオイルと同じ匂いがして」
ヘイデンに、自分の隣を叩いて座るように促すと、ヘイデンは手を繋いだまま、リオネルの隣に腰かけ直した。
「あと、サンドイッチ。――おんなじようなの作って欲しいってお願いしたら、その」
それで、リオネルは自分の詰めの甘さに笑ってしまった。
食堂のおばさん達が、いつものリオネルのおねだりの品だと、ヘイデンに明かしたのだろう。
「そんなに前から、バレてたんだ」
「俺は、嬉しかったけど」
ヘイデンが、リオネルの言葉に被せるようにして言った。
「俺、交渉の前に言ったよね。――かわいいと思ってる子がいるって。」
いつもより、ずっと、固い声。
すこし、震える、ヘイデンの指先。
リオネルの肩も、少し固くなった。
「リオネルのこと、ずっとかわいいと思ってた。
一生懸命、仕事に向き合って、怪我した時にはちゃんと叱ってくれて、でも、気遣ってくれて」
ヘイデンの指先が、少しだけリオネルの手をなぞった。
その指先を、リオネルの目線がなぞる。
「ほんとは、ディッカーになるのは、断ろうと思ってた。
――リオネルのことかわいいと思ってる俺が、ウルラのこと大事にできる自信がなかったから。……だけど、リオネル、あの時」
トントン、と小さく手の甲を叩かれて、ヘイデンの顔を見上げた。
お互いの目が合うと、ヘイデンが小さく喉を鳴らしてから、言葉を続けた。
「俺に、自分の貢献の形を託せるかどうか、確認したいって、そう言ってくれた。そう聞いたから、この話受けようと思った。
――この人の、覚悟を受け取れるディッカーになりたいと思った。」
空いた方の手で寝台のシーツを握りしめて、胸の震えをこらえてみた。
でも、少し息がしづらくなって、何度か唾を飲み込んでみて、やっぱり無理そうだった。
「そんな俺のウルラが、ロビンが、リオネルで嬉しかったし、
リオネルが俺になら託していいって思ってくれたのも。
全部嬉しかったよ」
「――――っ、ふ……っ」
こらえきれなくて、目の端から気持ちがこぼれていく。
それを、ヘイデンの指先が拾っていた。
「俺は、ロビンも、リオネルも、どっちも大事にしたい。
わがままだけど、許して欲しい」
「ふ、ぅぅ――――」
「リオネル――、」
ヘイデンはそう言うと、リオネルの背中に手を回して、抱き寄せた。
「今は、こうさせて」
リオネルも、その体温と、お日さまの匂いに、くっついてみた。
あたたかかった。
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