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第43話 ばか

「――ごめん、ヘイデン。ちゃんと、寝てて」  少し落ち着いて、ヘイデンから体を離して、離そうとして、できなかった。  背中の腕が、リオネルを解放してくれない。 「ヘイデン」 「今夜は、俺はここで一人?」  顔を上げると、ヘイデンの顔が思ったよりも近くて、少し首をすくめる。 「――患者さんを、一人にできないよ」  ヘイデンの顔が傾いて、もっと近づいて来て――、  耳元に唇を寄せられた。 「俺は、リオネルを一人にできないけど」  身体中の血管が、ぱあっと開いた気がした。 「――――ばか!」  とんと肩を突き放すと、今度はヘイデンの腕がするっと解けて、リオネルは解放された。 「うん。お仕事邪魔してごめんね。俺ちゃんと大人しくしてる。」  もう、ペナルティが数えきれなかった。  少し鼻の頭が赤いままのリオネルのことを、サミュエル先生もマルセルさんも放っておいてくれた。  こうやって、いつも見守られていた。    多分、ヘイデンも。  無理して意地を張らなくても、辛い時には泣いて、また立ち上がったらいい。  その時、一緒に手を取れる人がいると、もっといい。  それがヘイデンなら、すごくいいな。  その日の仕事を終えた時、整理したカルテを片付けながら、ふとそう思って、それから腰を伸ばした。  ひさしぶりに、体中スッキリしていた。   「ヘイデン、寝てる……?」  室内を覗くと、夕暮れ時の光の中、ヘイデンは横を向いて、ブランケットにくるまっていた。  いつも、仰向けに眠るヘイデンしか見たことがなかったけれど、こうして丸まって眠る様子は、なんだか子供みたいで、いつもより少しかわいかった。    寝台の横に膝をついて、ヘイデンをそっと覗き込むと、首から垂れた革紐の先、ピアスを手のひらに握り込んでいるのに気づいた。  足元、ヘイデンがくれた共鳴具をつけたところが気になって、そっと足をそろえた。  自分より大きな体。  へらっとしてみせているのに、大事なことはいつもちゃんと確認してくれる。  なんでも全力でこなすことを当たり前だと思っていて、それをちっとも偉ぶらない。  リオネルやロビンが泣くと、少し困った顔をして受け入れてくれて、あったかいハグをくれる。  大好きな人。  寝台に肘をついて、そこにあごを乗せる。  胸の内側から、大好きが駆け上がってきた。 「――大好きだよ、……ヘイデン」  小さくこぼした言葉は、リオネルの唇を駆け降りて、ヘイデンのまぶたをたたいたようだった。 「――俺も」  ヘイデンの目がうっすら開いて、リオネルの顔を映していた。 「先に言われちゃった」 「――ばか」  ヘイデンがそのままリオネルに額を近づけて、  同じ気持ちを返してくれたから、  許してあげることにした。

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