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余韻03 少しずつ
リオネルは、引き出しに手をかけてしばらくの間固まっていた。
ヘイデンは、確かに昨日「大事にさせて欲しい」と言った。
ただ、その言葉の真意を、リオネルは掴みかねてもいた。
ぬるぬるを、持つべきか、持たざるべきか。
――気が早すぎるのか……。
「でも……、いざって時なかったら困るし……」
リオネルだって、ヘイデンに触れたかった。
「ヘイデン、いる?」
扉を開けてそっと部屋を覗き込むと、部屋の中には明かりが灯っており、ソファに座って何かをしているヘイデンがいた。
リオネルは、ヘイデンにその身がバレていたことを申告し、認識阻害の魔法を解いてもらっていた。
管理官は何も言わずに魔法を解除したあと、なんと身元を守りきれなかったことを詫びてきた。
これは完全にリオネルの失態が原因だ。
頭を下げる管理官にそう詫びて、頭を上げてもらった。
「あ、リオネル。見て見て、今日室長からこれもらった」
「ん?なあに?」
近くに寄って覗き込む。
ヘイデンの膝の上には、きれいに畳まれた騎士服と、その胸元に控えめな装飾の徽章があった。
「師団の徽章。リオネルに見てもらいたくてさ」
その言葉に、体が温かいものに包まれたように感じた。
「――見せてくれて、ありがとう」
ディッカー集団である師団の徽章は、思っていたよりもずっと無骨で、素朴なものに感じられた。
「ううん。リオネルが俺を選んでくれた証みたいなもんだからさ、ちゃんとリオネルに見せたくて。なんだけど……」
嬉しそうに見せてくれた徽章は、ヘイデンの手で騎士服の胸元に装着されようとしていたのだけれども、その指は何度も空を切っていて、うまくつけられないようだった。
「ふはっ、ヘイデンってちょっとやっぱり不器用だよね」
「いわんでよー」
手を伸ばして、布地のもたつきを直してやる。
「こうしたら、少しつけやすいと思う」
「うん」
少し布地を引っ張って、付けるのを手伝いながら、ふと思う。
「ね、ヘイデン」
「……ん?」
たったこれっぽっちのことに、真剣な顔。
かっこいいな、と思ったこともあったけれど、やっぱり憎めなくてかわいい。
「これさ、着てからつけるやつだと思う。」
「……え?」
顔を上げたヘイデンと目があって、思わず笑ってしまった。
「着なよ。……つけてあげる」
ヘイデンが一生懸命付けた徽章は、騎士服に袖を通したらちょっとだけ曲がってて、やっぱりかわいかった。
お互いくすくす笑いながら、ヘイデンの胸元に徽章を付け直して、顔を上げたらすぐそこにヘイデンがいた。
指先で、徽章をつんとつつく。
「ね、防御力あがっちゃった?」
その言葉に、ちょっと眉毛をあげたヘイデンが、またちょっと笑った。
「ダメ、リオネルの攻撃力もあがっちゃったから、俺の自制心はいつも瀕死」
「――ほんと?」
ゆっくり、ヘイデンの顔が近づいてきて、リオネルの顔を覗き込んだ。
口元は笑顔のかたちだったけど、その目は静かだった。
「……ちゅうしていい?」
ゆっくり、まばたきをして、それから少し近寄る。
まだ何も始まっていないのに、心臓がぎゅうっと痛くて、
自分の息をはく音が、やけに近く聞こえた。
「してくれますか」
「……はい。」
喉のすぐ奥まで、心臓が駆け上がってきたみたいだった。
そっと、ヘイデンの唇が、リオネルに触れた。
「ぅ……、ヘイデン」
リオネルの肩口に顔を埋めてしまったヘイデンに話しかける。
「はい」
「ほっぺだけ……?」
ぴょんぴょん跳ねる心臓ごと、ヘイデンの腕が優しく包んでくれて、リオネルは、自分が子供っぽいことを言っている気分になった。
「……順番。」
肩に乗ったヘイデンの頭がくすぐったい。
「俺ら、一足飛びで最後まで行っちゃったから。……少しずつ楽しんでこ」
赤くなった耳が、リオネルの顔のすぐ横にあった。
少し顔を傾けて、ささやく。
「じゃあさ……」
リオネルの吐息で少し肩をすくめたヘイデンの耳に、小さな声でお願いしてみる。
「……うん」
ヘイデンが許してくれて、リオネルが唇をくっつけた頬は、あたたかく染まって、かわいかった。
「ね、ヘイデン」
「うん?」
「……少しずつって、楽しいかも」
「……うん」
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