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余韻04 ひとりじゃない

「いつでもはじめていいよ」  ソファで横並びに座って、ヘイデンの大きな手をもてあそびながら言った。  ヘイデンが隣にいるだけで、譲渡が少しも気重じゃなかった。 「リオネル」  もてあそんでいた手をヘイデンに取られて、顔を覗き込まれる。 「ん?」  おいでの形に腕を広げられ、嬉しくなってヘイデンにしがみついた。  ソファに乗り上げるように膝立ちして、ヘイデンを閉じ込める。 「はじめるね」  膝に腰を下ろして、ヘイデンの鼻先にキスをした。    つきん、と、いつもの痛みがリオネルの胸をノックする。  ヘイデンの目を見上げると、両頬を手のひらで挟まれて、耳の後ろをくすぐられた。 「ひゃあ、くすぐったいよ」  ぞくぞくした感覚と混ざった痛みが、リオネルの背中を駆け上がる。  その刺激に、つい背筋が伸びて腰がそり返った。 「リオネル」  ぎゅうっと胸の中を掴んだその声に、手から力が抜けた。  引き寄せられて、頭を抱き込まれる。 「リオネルが可愛すぎてどうにかなりそう」  そう言いながら、ヘイデンがリオネルの頭の中に顔をうずめた。 「ヘイデンずるい……」 「えっ、なんで」  ヘイデンの胸板に頬をくっつけて、これもいいなと思いながら、口を開く。 「俺だって、どうにかなりそう」  頬を押し付けたまま、大きく息を吸い込んで、はく。 「ヘイデンの顔、見たい」  頭を少し上向けると、目の前、すぐ近くにヘイデンがいた。 「うん、俺も」  ヘイデンの目尻が柔らかくたれて、リオネルの額や、まなじり、鼻の頭に唇が降ってくる。  それが、あの日を思い起こさせて、リオネルは唇の内側をきゅっと噛んだ。 「……リオネル?」  胸の痛みも繋がって、喉の奥が塞がるような感じがした。  息を飲み込んで、そのわだかまりを胃の中に落とす。  少しずつ。  そう、ヘイデンと決めた。   「ううん」  顔を下げて、ヘイデンの肩口に押し付ける。  目を閉じて、口から息を吸った。  震える胸の中、冷たい空気が染み込んでいく。 「リオネル、……どうしたの」  小さく首を振って、抱きつく腕に力を込める。 「名前、呼んで」  目を閉じて、耳の後ろをなでるヘイデンの指に意識を委ねる。 「もっと、……触って」  少し、声が震えてしまった。  泣いてしまいたくなくて、息をつめる。 「……リオネル」  頭の上から、首の後ろまでゆっくりとなで下ろされて、思わず肩が反って、背筋が伸びる。 「リオネル。……顔、見せて」  同時に顔が上を向いて、ヘイデンと目があった。  思いの外、真剣なヘイデンの目が、リオネルの顔を見て少し柔らいだ。  頬に手を添えられて、また、目の下にキスをされる。 「ヘイデン、……いやだ」  鼻先に唇を落とされそうになって、リオネルの唇から言葉がこぼれ落ちた。  目を見開いたヘイデンが、じっとこちらを見つめ返す。  目線を絡めたまま、少し震える唇で、リオネルは言葉を紡いだ。 「お願い。……ちゃんと、キスしたい」  お互い、息をつめたまま、しばらく見つめあった。  こらえきれなくて、リオネルが小さく息を飲み込むと、ヘイデンが小さく口を開く。  いろんな気持ちを飲み込みすぎて、喉の奥はもういっぱいだった。 「俺……、リオネルに、キスしていいの?」  小さく頷く。 「して。……してほしい」  震えながら息を吸い、ヘイデンにそう言うと、頬に触れる手の親指が、耳たぶをなぞった。 「そんなことしたら、もう俺、止まれないよ」  耳たぶから、ぞくぞくとした震えが身体中を駆け巡って、世界が揺れる。 「とめないで」  お互いの目線を絡めたまま、ヘイデンに、少し体重をかけた。  そのまま、引き寄せられて、引き合って、少しだけ唇が触れる。  ヘイデンの瞳に縫い止められたまま、お互いの唇を押し付けあって、  それから、ヘイデンの唇がリオネルの下唇をはさんだ。 「――っ」  思いがけない感覚に背中が震えて、ヘイデンの目線が柔らかくなる。  二人の間、少しだけ隙間ができて、ヘイデンが言った。 「とめない。リオネル、怖がっていいから、俺に……教えて」  もう一度唇が押し当てられ、ヘイデンの舌がリオネルの口の合わせを軽くなぞった。  許しを求められて、薄く口を開く。  少しだけ舌の先が触れ合って、思わず顎をひいた。  そのままの距離で、少しの間、見つめ合う。 「教えて――。ロビンみたいに、一人にしたくない」    その言葉に、首の後ろがぴりぴりとした。  ――そうか。  ヘイデンも、ひとりぼっちだった。 「して欲しいことは、全部するから」  そう言って少し離れたヘイデンに、リオネルから顔を近づけて、唇を押し当てた。 「して。……怖くないって、教えてあげる」      息の混ざる音だけが、部屋に落ちていった。

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