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『有名人その2――金森明』

 え……まさかだろ。  あいつがこのT高に通っていたとして、そこは百歩譲って……したくはないが、仮によしとしよう。  しかし、しかしだ。  なんで同じ学年なんだ?  たしかあいつ俺の一つ上だったよな?  なんて一瞬悩んでみたけど、そんなの出会った時から知ってたよ!  今年は2年生のはずだ。  それなのに、俺と同じ一年の教室にいる。しかも隣のクラスだったなんて。 * *  俺は金森が隣のクラスにいると気づいた日から、体育の授業の度にきょろきょろと周りを見回すようになった。  体育は二クラス合同だ。  ということは、だ。俺、七星のいる三組と金森、城河のいる四組が一緒に行うということになる。  しかし、彼らはあまりちゃんと授業に出ていないのか、二日前の授業で城河のほうを初めて見かけたのだ。金森はその日もいなかった。  たぶん、他の授業も出たり出なかったりなのだろう。そのせいで気づくのが遅れた。 (なにやってんだ、あの人。そんなんだから、一年もう一度やるハメになったんじゃないのか?)  金森も城河もいないことにほっとしながらもちょっと心配するようなことを考えてしまう。 (いやいや、全然心配なんかしてないから!)   城河に関しては七星と接触させたくない一心だ。  T高校は文武両道を掲げている。  体育の授業はかなり厳しい。一年の担当は陸上部の顧問の谷口で、やたらと走らされる。授業内容の前に必ずグラウンドを五周だ。  俺にはそんなものは屁でもない。  しかし、運動神経と体力にちょっと難のある七星には厳しいらしい。最初の授業のランニングの途中で倒れたくらいだ。そして必ず、最後まで残っている。  俺はもうすでに次の競技に移っていた。一回目のハードルを飛び終えて、七星の様子を見る。まだ数人とコースの外側を走っている。ある程度の時間になると邪魔にされ、コースの外側は走らされる。今はもうその段階だ。 (頑張れ! 七星!)   俺は手を振りながら心の中で声援を送った。本当は伴走してあげたいし、声をあげて声援を送りたいがそれは無理というものだった。  ハードル走三度目の列に並ぶ。  七星は走り終えて木陰に避難。最初に倒れてからランニングの後は少し休むよう、谷口に指示されている。 (ん? んん?)  俺まで順番が回ってきたところで、七星がオレンジ色の髪で、臙脂のジャージを着た男と間近で話をしているのが、目に入ってしまった。ジャージは学年色で今年の一年は紺、そして去年の一年が臙脂だ。 (金森! なんで七星とっ)  俺はハードル目がけて走り出し、二個目まで飛んだが残りの八個をすべて蹴り飛ばしゴールした。 「おいっ日下部!」  谷口の怒りの声は聞かなかったことにし、 「すみませーん。天野くんの様子見てきます」  とにこやかに言ってグラウンド中央を抜けた。 「日下部!」  コースでは短距離走をやっている。競技は二手に分かれて行われていた。  短距離走の生徒の邪魔をしないように走り抜け、一路七星の元へ。  その時には金森は城河に引っ張られて七星から離れて行った。 (城河もいたのか)  城河との接触を許してしまった! ダブルの怒り。  二人の去っていった方向を見ていた七星がこっちを向き、俺に気づいたようだ。俺は手を振りながら走り寄る。  言いたいことはある。だが、とりあえず。 「七星。もう大丈夫?」   気遣う言葉を言って七星の顔を覗き込む。  今彼の心には何があるのだろうか。城河のこと?  しかし、覗き込んだからといって分かるはずもなかった。俺は異能者ではない。 「あ、うん。もう平気」  さて、今のことをどうやって聞くべきか。  四月だというのに今日はなんて暑いんだ。ジャージの上着も脱いでTシャツだけだというのに。走って止まったら汗がだらだら。さらに変な汗までかいてくる。  襟ぐりをぱたぱたしながら考える。 「今さー金森先輩いたよなー?」  結局直球だった。 (先輩とか言いたくないけど、一応な) 「うん。――日下部くん、メイさんとも知り合い? あ、中学同じだっけ」  俺が金森のことを知っていたことに七星はちょっと不思議そうな顔をした。 (メイさん? 今、メイさんって言った?)  内心の動揺を隠しながら。 「知り合いっていうか――有名人だから?」  あくまで噂程度にしか知りませんという(てい)を装う。 「ねぇ、有名人って。いっ……城河くんとメイさん学年違うけど、中学の時から」 (また、「いっ」て言った。本当はなんて呼ぼうとしてんだ?)  聞いてもたぶん誤魔化すに違いない。そして、俺も二人のことはあまり話題にしたくない。 「それよりさー」と七星の言葉を遮った。 「七星こそ、金森先輩と知り合いなの?」  この間ぶつかった時はそんな感じではなかったけど。 「ううん。今日初めて話したけど?」 (だよね??) 「え! じゃあなんで『メイさん』て呼んでるのさー」  ここ大事!  俺がいくらお願いしても『大地』って呼んでくれないのに、初めて話した金森のことを何故『メイさん』と呼ぶ!  ぶつかりそうな勢いで迫れば、七星は後退る。 「えーっと、『メイ』って呼んでって言われたから」 (それって俺と一緒だろ)  めちゃめちゃ悔しい気持ちになる。拳を振り回したいくらいだ。 「俺だって『大地』って呼んでって、言ってるじゃん! 金森先輩だけ、ずるいっ」  七星がちょっとびびった顔をしているけど、それすら気遣えない。 「メ……金森さん、ちょっと圧が強くて」 「今更言い換えても遅いっ! 俺のことも『大地』って呼べよ〜」  感情が湧き上がって泣きべそかきそうになったところで、タイムオーバー。 「おーい! そこ、何やってる!!」  谷口の怒鳴り声が聞こえてきた。  放課後の話し合いにより、俺はやっと『大くん』に昇格した。  

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