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『これは、ひょっとして、あーんってヤツですかっ』
困ったことに七星は金森に懐かれた。
遭遇すれば手を振ってくるし、平気で話しかけてくる。
しかも大抵城河も一緒だ。
金森はもちろん城河にも七星を近づけたくない。
城河との関係は未だに分からないし、聞いても誤魔化されそうな気がして聞けないでいる。
しかし、金森はどう見ても七星のことが好きだろう。きっと俺と同じ意味で。
それに金森に話しかけられ、その傍に城河もいるとなれば、周りが黙っていないはずだ。羨望や嫌悪と様々な視線や陰口で七星の周りは騒がしい。
きっと七星はこういう状況を怖いと思っているだろう。
俺は七星を守る!
といってもせいぜい二人が近寄ってきたら避けるくらいにしかできないけど。そして、何故か俺と同じ行動を城河が取っているような気がするのだ。
俺の心配をよそに七星は金森のことはそれほど嫌がっているようには見えない。
「大くんて、メイさんのこと嫌いなの?」
そうなんでもないことのように訊かれ、俺はムッとした。
「好きなわけないじゃん」
「なんかあるの?」
(それはいろいろ大ありだー!)
そう叫びたいが。
「とにかく、あの二人といると目立って危険だから」
これもあながち嘘ではない。
「危険て、そんな……」
七星がくすっと笑う。
大げさだと思われたのか。
「笑い事じゃないし! もし、何かあったら俺に言えよ。七星のことは、俺が守るからっ」
自然の流れに見えるようにぐっと七星の肩を抱き寄せる。
でも時々思う。
俺の行動や言葉が七星に何かを思い出させているんじゃないかって。
(いったい、誰を思い出してるんだ? もしかして……)
* *
六月ももうすぐ終わる。
七星と出会って三か月が過ぎようとしていた。俺たちは順調に友だち関係を築きあげている、と思う。
七星は、俺を『大くん』と呼ぶことにもすっかり慣れたようだし、この学校の誰よりも気兼ねなく話せているはずだ。
今のところ俺はそれに満足している。
ただ俺の気持ちを知らない七星の行動にかなりどぎまぎさせられることもある。
「美味しそうだなぁ、唐揚げ」
梅雨の晴れ間。今日は久しぶりに二階テラスで昼休みを過ごしていた。
俺が自分の弁当を平らげても七星はまだ半分も食べてなかった。
「食べる?」と言われ、つい「えっいいの?」と本音が零れてしまったが、すぐにはっとする。
「いや、ダメだ。それは七星が食べないと。大きくなれない」
でも七星は優しい。
「はい、どうぞ。僕一個食べたから」
と俺にくれようとした。
それはいい。
いけないのは、七星自ら箸で唐揚げを取り俺の口元に運んだこと!
(なんだ、これっ。あーんってヤツだよな!)
俺は固まった。もちろん嫌なわけじゃない。どきどきしすぎてどうしていいかわからない。もしかしたら顔が赤くなっているかもしれない。
「あ。ごめん。同じ箸使うの嫌だった?」
勘違いしたのか、少し寂しそうに見えた。
「や、そうじゃないよっ。寧ろ、うれ……」
『嬉しい!』本音暴露はさすがに引かれるだろう。
「あわわ。全然、そうじゃないけどっ」
俺は一人でわたわたした。
(うへぇ〜めちゃ顔熱いわ!)
かもしれない――じゃなくて、完全に顔が赤くなっている。
このままこの状況を続けるのは辛い。俺は「いただきますっ」と言って唐揚げを奪った。咀嚼しながらどうにか冷静さを取り戻す。
「美味しいっ」
そう言うのを忘れない。でも、これは本当。
『あーん』も加味されたが、天野家の唐揚げは最高に美味しかった。
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