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『俺の七星に手をだすな!』
それはちょっと油断した隙のことだった。
七星と金森の間に入って、近づけさせないようにしていたというのに。
気づいたら金森は七星の前にいた。
「ただのオシャレさんかと思った――いつも前髪気にしてたから」
七星の額に向かって手を伸ばしている。
(金森!)
あいつが何をしようとしているのか分かった時にはもう遅い。金森は七星の前髪を撫で上げ、額を全開にしたのだ。
(こいつにも見えたんだ、額の傷がっ)
七星がなんでやぼったいくらいに前髪を伸ばしているのか、恐らく金森にも分かっているのだろう。それなのに何故その傷を晒そうとするのか。
俺は怒りを感じた。
「おいっ」
金森の手首を掴んで引き離そうとした瞬間、やつは言った。
「気にすることないよ」
ひどく温かな声が耳には入ってきて、俺は手を止めた。
いや! ここでやめるべきじゃなかった!
すぐにでも引き剥がすべきだったんだ!
その声に騙された。
まさかあいつが他にもギャラリーがいるところでこんなことするなんて。
金森が顔を近づけ、七星の額の傷にキスをしたのだ。
「わーっっ!!」
ドンッ。
俺は叫んで金森を突き飛ばした。
「ったたたっ」
金森がバランスを崩して尻餅をついているすきに、七星を奪って抱きしめた。
「俺の七星に変なことすんなーっっ」
『俺の七星』
言ってしまった。いつも心で思っていることを。
(七星は……?)
どう思っただろうか。
しかしどうやら当の本人はまだ、一連の出来事を頭で咀嚼できていないようだ。俺の腕の中で身動きを取らず、声も出さず、呆然としている。
声を上げたのは金森のほう。
「はい? 俺のってどゆこと?」
尻餅をついたままの格好で俺を見る。俺はこれ以上何も言うことはないとばかりに睨みつけた。
金森は目を細めて俺の顔を見ている。何か考えているかのように。
しかしそれも数秒で、すぐに立ち上がってスラックスをはたくと、
「もう、行くわ。じゃあね〜」
いつもの調子で言って去っていった。
俺も急に我に返った。
「あ、ごめんっ」
今までぎゅうぎゅう抱きしめていた七星を離した。
なんとなく気まずい空気が漂っている。
二人で並んで座って壁に寄りかかっている。
俺は空を見上げた。
青い空が目に染みる。
その時俺が考えていたのは金森のこと。
(なんだ? 夢でも見たのか?)
軽くて調子のよい男の別な面を垣間見たような気がした。
(あれは……昔の……)
ぶるっと頭をひと振りする。
(あんなヤツどうだっていい!)
それより、七星だ。
俺の言葉をどう思っただろうか。
ちらっと隣に視線をやったが、同じようにぼんやりと空を見ている。
(あー、全然何も分かってない気がするー。俺の言葉の意味なんか――それより、金森のキスはどう思ったんだ? 気になる。それに)
『気にすることないよ』
七星の傷を気遣う言葉。
(なんか。先越された感あるんだよなー)
悶々と考えている間に昼休みも終わりそうになる。
「もう戻ろうか」
俺はやっと七星に声をかけた。
「うん、そうだね」
ほっとしたような返事が返ってきて、気まずい空気が消えた。
俺たちは同時に立ち上がる。
七星を振り返る。
「傷は男の勲章だぜ」
俺は、親指を立ててにかっと笑った。
先を歩く俺の耳に七星の小さな笑い声が聞こえてくる。
(ちぇっ。やっぱ、キマらねぇーな)
俺の顔が真っ赤なのをたぶん七星は知らないだろう。
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