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『ナナって呼んでたよな?』

 期末テストも無事終了し、夏休みに入った。  学校にいる限り、金森との接触は避けられない。金森がいればもれなく城河もついてくる。  でも、夏休みの間は違う!   二人に邪魔されることなく、七星に会うことだってできるはず。一学期の間は学校外で会うことはなかったが、もう四か月近く慣らしてきたんだ、そろそろどこかに遊びに行ったりとか、お互いの家に行き来したりとかしてもいいんじゃないか?  俺も部活があるし、そう頻繁に時間が空いているわけじゃないけど。七星も俺以外に遊びに行く友だちもいなさそうだし。  別に上から目線とかってわけじゃない。  七星から他の友だちの話を聞いたことがないのと、あとは俺の希望的観測だ。  そして、そのチャンスは割とすぐに巡ってきた。  七月三十一日は七星の誕生日だ。  前々から七星の誕生日を祝いたいと考えていた俺は、テスト最終日のホームルームあとに七星に言った。 「七星、三十一日誕生日だろ。俺に祝わせてくれよ」  七星は驚いたような顔をして即答はしなかった。俺は少し不安になって、 「あ、他に用事があるなら、その、別に当日じゃなくても。どっかその近辺で」  さっきの自信満々な物言いから一転弱気になり、もごもごつけ加えた。 「ううん。大丈夫。他に用事ないからその日で。もうずっと家族以外に祝って貰ってないから、ちょっと驚いちゃって。大くんありがと」  少し照れたように笑う七星がめちゃめちゃ可愛くてきゅんとした。 * *    約束は午後二時。  なんと、なんと! 七星は自宅に呼んでくれたのだ!  七星は母と姉と三人暮らしで、二人とも働いていて昼間は誰もいないらしい。 (誰もいない……)  ちょっとやましいことを考えてどきどきしたが、すぐに頭を振る。 (いやいや、まだまだまだまだ先の話だ。告白すらしていないのに)  スマホに住所を送って貰い、簡単に場所を説明して貰った。七星の家は隣の学校の学区なので、その辺りはなんとなく分かる。  今はたぶん七星も来たことがあるのでは? と思われるコンビニにいる。  プレゼントがわりにドリンクや菓子を俺が用意する。 (ケーキはぜったい必要だよな! あとはお菓子と飲み物と)  俺の心は弾みまくっていた。  まずはドリンクコーナーに直行。ガラス越しに飲み物を物色する。  そこで何故かふいに、一学期最後の日のことが頭に浮かんだ。  その日は部活もない、一斉下校日だ。  俺と七星は話しながら二人で校門へと歩いていた。  そこへ妙に目立つ集団が横を通り過ぎて行く。例の、金森と城河を含めた、派手な集団。城河はこっちを見もしなかったが金森は、 「あ、ななちゃん、だいくん。ばいばい〜」  といつもの調子で手を振ってきた。 (おいっこらっやめろっ。こんなとこで話しかけんな)  心の中で言ってそっぽを向く。  これには理由があるのだ。 「あ、ごめんねー」   七星が派手な女子にぶつかられた。少しも謝っているようには思えない。 (ほら、みろ。あんたのせいで)  金森が親しげに話しかけているのを妬んだ女子――男子もだが――から嫌がらせを受けたり陰口を叩かれたり。一時期よりは減ったが未だにあるのだ。 「なんだ、あいつら。わざとぶつかっただろ」 「そう?」  七星は気づいてないふりをした。 (七星、優しすぎるよ〜。やっぱり俺が守ってやらなきゃ)  そんなふうに改めて決意をしていると。 「ナナ」  と呼ぶ声が聞こえた。 (へっ『なな』?)  目の前にいたのは城河だ。 「城河くん」 (七星は『城河』と呼んでいる。えっ? さっきの俺の聞き間違い?) 「天野――お前、あまり俺らの周りに近寄るな」 (あれ、天野って言ってる。やっぱり聞き間違いだった?)  俺が首を傾げている間になんだか険悪な雰囲気に。 「僕は近寄ってなんかないよっ。メイさんが僕に話しかけてくるんだからっ」  いつになく刺々しい。こんなことを言う七星は見たことがない。   城河の顔も険しくなる。 「お前、それ」  城河の指がぴんっと七星の前髪を弾く。 「他の奴に見せるなよ。カナになんか、触れさせるなっ」  そう吐き捨てるように言って去っていった。 (え……っ。ええーーーっっ。今のなに―――っ)  俺は叫び出しそうになった。  その後、そのことについて七星に聞くことはできなかった。七星が泣き出しそうな顔をしていたのだ。 (やっぱり、あれって聞き間違いじゃなかったよな。『なな』って呼んでた。二人はただ家が近いってだけじゃない……?)  それまでにも何度か感じたことだ。  ドリンクコーナーのガラスに映る自分を見て、はっとする。 (なんで、今あの時のこと思い出したんだ?)  さっきまで弾みまくっていた気持ちが沈んでしまう。 「今日は七星の誕生日だろ」  小さく唱えて、ガラスの中の自分に向かってにこっと笑う。そうすると当然向こうも笑った。俺はもう一度モチベを上げる。 (えっと。飲み物なににしようかな) 「だ〜いくん」  そんな調子のよい声とともにそいつはやってきた。  なんで気づかなかったんだ、俺!          

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