10 / 12
『ナナって呼んでたよな?』
期末テストも無事終了し、夏休みに入った。
学校にいる限り、金森との接触は避けられない。金森がいればもれなく城河もついてくる。
でも、夏休みの間は違う!
二人に邪魔されることなく、七星に会うことだってできるはず。一学期の間は学校外で会うことはなかったが、もう四か月近く慣らしてきたんだ、そろそろどこかに遊びに行ったりとか、お互いの家に行き来したりとかしてもいいんじゃないか?
俺も部活があるし、そう頻繁に時間が空いているわけじゃないけど。七星も俺以外に遊びに行く友だちもいなさそうだし。
別に上から目線とかってわけじゃない。
七星から他の友だちの話を聞いたことがないのと、あとは俺の希望的観測だ。
そして、そのチャンスは割とすぐに巡ってきた。
七月三十一日は七星の誕生日だ。
前々から七星の誕生日を祝いたいと考えていた俺は、テスト最終日のホームルームあとに七星に言った。
「七星、三十一日誕生日だろ。俺に祝わせてくれよ」
七星は驚いたような顔をして即答はしなかった。俺は少し不安になって、
「あ、他に用事があるなら、その、別に当日じゃなくても。どっかその近辺で」
さっきの自信満々な物言いから一転弱気になり、もごもごつけ加えた。
「ううん。大丈夫。他に用事ないからその日で。もうずっと家族以外に祝って貰ってないから、ちょっと驚いちゃって。大くんありがと」
少し照れたように笑う七星がめちゃめちゃ可愛くてきゅんとした。
* *
約束は午後二時。
なんと、なんと! 七星は自宅に呼んでくれたのだ!
七星は母と姉と三人暮らしで、二人とも働いていて昼間は誰もいないらしい。
(誰もいない……)
ちょっとやましいことを考えてどきどきしたが、すぐに頭を振る。
(いやいや、まだまだまだまだ先の話だ。告白すらしていないのに)
スマホに住所を送って貰い、簡単に場所を説明して貰った。七星の家は隣の学校の学区なので、その辺りはなんとなく分かる。
今はたぶん七星も来たことがあるのでは? と思われるコンビニにいる。
プレゼントがわりにドリンクや菓子を俺が用意する。
(ケーキはぜったい必要だよな! あとはお菓子と飲み物と)
俺の心は弾みまくっていた。
まずはドリンクコーナーに直行。ガラス越しに飲み物を物色する。
そこで何故かふいに、一学期最後の日のことが頭に浮かんだ。
その日は部活もない、一斉下校日だ。
俺と七星は話しながら二人で校門へと歩いていた。
そこへ妙に目立つ集団が横を通り過ぎて行く。例の、金森と城河を含めた、派手な集団。城河はこっちを見もしなかったが金森は、
「あ、ななちゃん、だいくん。ばいばい〜」
といつもの調子で手を振ってきた。
(おいっこらっやめろっ。こんなとこで話しかけんな)
心の中で言ってそっぽを向く。
これには理由があるのだ。
「あ、ごめんねー」
七星が派手な女子にぶつかられた。少しも謝っているようには思えない。
(ほら、みろ。あんたのせいで)
金森が親しげに話しかけているのを妬んだ女子――男子もだが――から嫌がらせを受けたり陰口を叩かれたり。一時期よりは減ったが未だにあるのだ。
「なんだ、あいつら。わざとぶつかっただろ」
「そう?」
七星は気づいてないふりをした。
(七星、優しすぎるよ〜。やっぱり俺が守ってやらなきゃ)
そんなふうに改めて決意をしていると。
「ナナ」
と呼ぶ声が聞こえた。
(へっ『なな』?)
目の前にいたのは城河だ。
「城河くん」
(七星は『城河』と呼んでいる。えっ? さっきの俺の聞き間違い?)
「天野――お前、あまり俺らの周りに近寄るな」
(あれ、天野って言ってる。やっぱり聞き間違いだった?)
俺が首を傾げている間になんだか険悪な雰囲気に。
「僕は近寄ってなんかないよっ。メイさんが僕に話しかけてくるんだからっ」
いつになく刺々しい。こんなことを言う七星は見たことがない。
城河の顔も険しくなる。
「お前、それ」
城河の指がぴんっと七星の前髪を弾く。
「他の奴に見せるなよ。カナになんか、触れさせるなっ」
そう吐き捨てるように言って去っていった。
(え……っ。ええーーーっっ。今のなに―――っ)
俺は叫び出しそうになった。
その後、そのことについて七星に聞くことはできなかった。七星が泣き出しそうな顔をしていたのだ。
(やっぱり、あれって聞き間違いじゃなかったよな。『なな』って呼んでた。二人はただ家が近いってだけじゃない……?)
それまでにも何度か感じたことだ。
ドリンクコーナーのガラスに映る自分を見て、はっとする。
(なんで、今あの時のこと思い出したんだ?)
さっきまで弾みまくっていた気持ちが沈んでしまう。
「今日は七星の誕生日だろ」
小さく唱えて、ガラスの中の自分に向かってにこっと笑う。そうすると当然向こうも笑った。俺はもう一度モチベを上げる。
(えっと。飲み物なににしようかな)
「だ〜いくん」
そんな調子のよい声とともにそいつはやってきた。
なんで気づかなかったんだ、俺!
ともだちにシェアしよう!

