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『七星、城河……そして、金森の関係性』②
七星は語った。
小学校六年の時、城河と二人で『坂の上公園』に遊びに行き、たちの悪そうなK中生五人に絡まれた。そいつらは石碑にラッカーで落書きをしていて、それを城河が止めたからだ。
自分が通っていた学校を悪くいうのもなんだが、K中にはかなり悪いやつらもいる。
例えば。
俺は話を聞きながら、ちらっと金森を見た。
二人は逃げようとしたが、七星が追いつかれ倒されて上に乗っかられた。運悪く顔面が着地した場所にゴツゴツとした石が埋まっていた。
(それで……あの傷)
話を聞いただけで自分の額も痛くなるような気がした。
城河は学校が終わると毎日のように見舞いに来ていた。ある日、取れかけた包帯がうまく巻けなくて困っている時にちょうど城河が来て、七星は巻き直すのを頼んだ。
城河は――その時初めて生々しい傷痕を見たんだ。
その日から城河は七星の家には来なくなった。
七星が登校しても距離を取るようになった。道一本隔てただけの場所だが、中学の学区は違っていた。
それから三年、T高でまさかの再会――という流れだ。
それまでの城河はやりすぎるくらい正義感が強く、野球少年だったらしい。
野球少年の部分は俺も知ってた。
М小野球クラブの『城河樹』は、俺らK小野球クラブでも有名だったのだ。同じK中で一緒に野球をやるものだと思っていた。しかし、入部してみれば城河はいなかった。そして、ある噂が……。
「ごめんっ」
(おわぁ〜なにやってんだ、こいつ)
話を聞き終わった後、金森がいきなり謝って土下座した。
「それ、オレらだわ」
(はっ? オレら?)
もちろんいつものふざけた調子はなく、神妙な顔つきだ。
「あんとき、倒れた子が動かなくなって、樹が駆け寄って助け起こした。そしたら、顔中血だらけでオレら怖くなって逃げたんだっ」
聞いている途中から俺の拳はふるふると震えだした。拳だけじゃなく、身体全体が。
(なん……っ)
「っだってぇ! か、なもりぃーっっ!!」
俺は床に頭を擦りつけて謝る金森の肩をぐっと掴み、拳を振り上げる。
でも。
「大くんやめてよぉ」
七星が泣きそうな顔で腕に縋りついてきた。
「なんでっ」
「運が悪かっただけ。倒れたところに石が埋まってるなんて誰も思わない」
俺は掴んだ肩を突き放した。それでも憤りが収まるわけじゃない。
「そんなことないっ! 今の話、どう考えてもこいつらが悪いだろっ」
「それでも! それでも、だよ。大くん、今更言っても起こったことは変えられない」
(七星、人がよすぎる。そんな傷負わされて、どうしてそんなふうに思えるんだっ。今でも前髪で隠してるくせにっ)
それに俺には俺の、こいつを怒りたい理由があるだ。
(こいつがこんな情けない男だったなんて。くそっ一発殴りて〜〜)
「……ななちゃんの顔。初めてまじまじ見た時」
気まずい沈黙を破ったのは元凶の金森だった。
「どこかで見たような気がしたんだ。その傷を見た時も。それから『なな』という名前も。頭の隅でもやもやとした何かがあって、でも思い出せなくて」
俺は信じられない気持ちでそれを聞いていた。
(おまえ! それは本当にひどすぎるっ。自分たちが怪我させた相手の顔を一目見て分からないなんてっ)
当時金森は中一。かっこつけていても悪ぶっていても、血だらけの人間を見たらびびってもしょうがない。とか、小学生の七星と高一の七星では印象が違うかも、とか。そういうのを差し引いても。
(やっぱ、サイテー男だ!)
「ほんとに、申し訳ない」
金森はもう一度頭を下げる。
「もう今更その傷をなかったことにはできないけど、オレにできることはなんでもする。樹と……もう一度っていうなら協力する」
俺はずっと黙って聞いていたけど心の中では怒鳴り散らしている。
(おいおい、待てよ。もう一度ってなに? もう一度友だち? あの男が『お友だち』って柄か。それに……今二人がまた距離を縮めたら……ただの友だちってだけですむのか……?)
これは俺がそういう質 だからの思考か。ても、それだけじゃない予感めいたなにかが……。
「いっくんと……もう一度……それは……たぶん、無理……です」
七星が悲しそうに呟く。
そんなふうに悲しそうにされると俺の考えたことが恥ずかしくなる。
「……樹、その傷に責任感じてるんじゃないか、だから」
「そうかも……でも、この傷を見るまでは毎日来てたんですよ? まだ全然治りきってなかった傷が気持ち悪かったのか……苦しい気持ちにさせたのか……」
今にも泣き出しそうに見えた。
俺は城河のことをそれほど知っているわけじゃない。中学では同じクラスになったこともなく、せいぜい学校内ですれ違う程度だった。小学生の時に野球の試合をした時のほうが接触があったとさえ言える。
そんな俺でも分かる。
城河はそんなやつじゃないんじゃないか?
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