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『城河樹が有名人なわけ』
でも、それを言ったのは俺ではなかった。
「そんなこと……ないだろ……樹、そんなヤツじゃ……」
俺よりも城河のことをよく知っている、金森だ。
俺もそんなことで離れていくやつじゃないと思うし、悔しいが七星のことが大事なんだろうと思われるある噂を知っている。
七星がたぶんずっと聞きたくて、俺がはぐらかしていた『城河樹は有名人』という理由がこれに当たる。
「お礼参り」
なんとも古臭いワードだけど、まさにこれなのだ。
「М小の城河樹は、K中の野球部に入る――俺らK小野球クラブでも城河は有名だった。でも、入学して俺が野球部に入った時、あいつはいなかった」
「いっくん、野球部にはいらなかったの……?」
七星は本当になにも知らないようだ。
この話はきっと七星にとっても辛い話になるだろう。
「六年の秋頃、城河樹はK中に乗り込んできた。城河は入学してから野球部入部を希望していたけど、顧問に拒否られたって先輩らが言ってた」
「いっくんがK中に乗り込んで」
七星は呆然として呟いた。
「だから言ったろ『有名人』だって。俺は三年間一度も同じクラスにならなかったけど、校内で見かけるあいつは俺らと試合していた頃とは雰囲気がかなり違って見えた」
実は城河がK中に乗り込んできた理由がはっきりとしていなくて、いろいろな憶測が流れていたのだ。さっき七星の過去話から推測するに、城河がK中に乗り込んできたのは、その事件が起きたあとに違いない。
そこで推測できるのはやはり『お礼参り』なのだ。
そして、真相は金森が知っていた。
「そう。授業の最中にグランドに入り込んで、大声で叫んでた『坂の上公園で落書きしてたヤツ出てこいっ。ななに謝れー!!』ってさ」
その時金森は授業をさぼり、公園にいた仲間とグラウンドの隅にいた。叫んでいるのが公園にいた小学生だと気づき近づいていく。乱闘になりそうなところで教師が止めに入った。
金森はそう説明した。
(やっぱり、そうだった。城河は七星のために)
それは小学生時代の城河であり、今の城河ではない。それなのに、俺は城河に敵わないような気がした。
「でも、メイさん。そんなことがあったのに、なんでいっくんと一緒にいるの?」
七星の顔に少しだけ嫉妬のようなものがちらついて見えたのは、俺の気のせいか。
気のせいにしておこう。
(そうだ! それそれ! 学年も違うのになんでいつもツルんでるのか気になってたんだ!)
しかも、そんないきさつがあったということが今日判明し、さらにその思いが高まる。
「ん〜」と金森は少し考える素振りをしてから「オレがホレたからかな」と言った。
憧れの者を見るような目をしている。
そんな金森を見て、俺は何故か胸に軽い痛みを覚える。
それを払いのけるように俺は、
「なんだ、それ」
わけわかりませんふうに言い放った。
城河はその後K中に乗り込んでくることはなかったが、学校外で何度も金森たちを張り、『ななに謝れ』と言い続けて喧嘩をしかけてきた。
「――でも、アイツあんま強くないんだ。それなのに何度もきて、目に涙いっぱい溜めて言うんだ。何やっても面白くないと思っていた時期で、てきとーに悪い先輩たちとツルんでた。それでも内心全然面白くなくて。たびたびぶつかる樹のこと前々から興味あったけど。オレたちと違ってあんなふうに熱くなれて、面白いヤツだと思ったよ」
(おもしろくない……)
俺は金森の言葉にムラっときた。
(俺らのやってきたことは、あんたにとっておもしろくないことだったのか? だから……っ)
「なんだよ、おもしろくないって」
俺の口からつい零れてしまったが、金森には聞こえてなかっただろう。
(俺の言葉は永遠に届かないんだ)
「うちの中学に入ってきたって噂を聞いて、オレはもう一度アイツを挑発した。そしたら――」
「そしたら?」
俺と七星は同時に発した。
「――負けた。オレ。アイツ、めちゃめちゃ強くなってた。それに前とは雰囲気変わってたし。『なな』のことも言わなくなってた。何があったんだろうって、ますます興味が湧いてついて回った。最初は全然相手にされなかったんだけどね」
てへっと笑う。
いつもの調子の金森だ。
でも、たぶん、今までのが本来の金森なのだ。
それを俺は知っている。
なんであんなチャラいお調子者みたいなのを装っているのか。
『何やっても面白くない』
それが理由なのか。
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