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『それって嫉妬ってヤツだよな』

「学校外でのボクたちとの騒ぎも学校側に伝わってしまっていてね――野球部に拒否られたみたいだねー。樹が野球やってたって、知らなかったよ〜」  一人称が変わるのはいつもの調子に戻った証拠。 「いっくんが野球辞めたの、僕のせいなんだ……」 『有名人』の真相が明かされ七星が愕然とする。  恐らく七星は野球をする城河を応援していたのだ。もしかしたら俺たちとの試合にも見に来ていたのかもしれない。 「そんな顔しないで……樹は後悔してないと思う。ななちゃんのためにやったこと」  金森の顔つきがまた変わる。ひどく優しい。    こういう時はぐっと大人っぽく見えるし、優しい男なんだって感じる。  だから、余計にいつものあれはなんなんだ! って思うんだ。 (まぁ、この優しさは主に七星対応のような気もするんだけど……やっぱり、金森は七星のことが……)  なんとなくムラっとくるが、それがどっちに対してなのか自分でも分からなかった。 「樹があんなふうに変わったのも、ななちゃんのことを避ける理由も分からない。でも、樹はななちゃんのことを嫌ってなんかないって、ボクは思うよ。だから――ななちゃん、樹にぶつかっていきなよ」 (なんだ、金森。いいこと言いすぎじゃないか)  城河にぶつかっていけ、とか、七星のことを好きな俺には言ってあげられない。もし、二人が距離を縮めたら、ただの友だちのままで終われない予感がするんだ。 「だめだよ、だって、近づくなって言われた」  七星のその言葉に俺と金森は「あー」と同時に声を上げた。   『あまり俺らの周りに近寄るな』  さっき俺がコンビニで思い返していた出来事だ。  俺と金森が同時に言った「あー」は微妙に抑揚が違い、金森にはこの時の会話が聞こえてなかったのだと思った。  金森は、七星の語る『一学期最後の日』のことを聞き終えると、一言。 「それって、アレだ〜。嫉妬ってヤツだよね」 「嫉妬?」  七星はやっぱり全然分かっていなかったのだ。自分は城河に嫌われていると思っているから、そんなことは頭に浮かんでもこなかったのだろう。  俺にも分かったというのに。 「だね。俺、傍で見ていたけど、アレは嫉妬だね」  そこはもう不本意ながら金森に同意する。 「嫉妬? 僕に?」  はっきり言ってあげてもこの勘違い。  自分のこと卑下しすぎじゃないか。そういう控えめさも七星の美点なんだけど。 「違う違う」  また金森と被ってしまった。 「なんで、ななちゃんにー、になるのぉ〜」  さすがの金森もちょっと呆れ気味。 「だいたい、初めてななちゃんと話した時から変だと思ってたんだよ。手首千切れるかと思うくらいに掴まれて、引き離されるし」 (これは体育の時のことだな)  あの時そんなことがあったのか。 「その後も『ななちゃん』て呼ぶたびに睨まれるし〜〜。なんでなのか知りたくて、傷見たとかおでこにちゅーしたって挑発したら、お腹にグーパンチだしっ」 「ダサっ」  俺は大げさに笑ってやった。  でも心の中はかなり複雑な思いだ。 (やっぱ、城河。七星にめちゃめちゃ執着してるんじゃないのか?) 「なんだとー」  金森に手刀をおみまいされそうなところを華麗に()ける。 「とにかく、樹にとって『なな』は特別なんだと思うよ!」  「俺もそう思う。あの時だって隣にいた俺のことなんて目に入ってなかった感じだった。絶対七星しか見えてなかったんだってぇ〜」  なんでこんなこと言ってしまうんだろう。城河を肯定するようなこと。  それでも七星は俺たちの見解を信じない。 「二人の勘違いだよ。だってあんな怒った顔をして、ずっと避けられて。きっと今仲のいいメイさんと僕が話すのが嫌なんだ。こんな気持ち悪い傷、他人に見せるなって、そう思ってるんだよ」   とうとう七星の目から涙が溢れ出す。 「いや、樹はボクのこと、そんなに大事にしてないし〜その傷だって気持ち悪くなんかないよ〜」  金森は七星の頭を撫でて慰める。こういうことが自然にできる男だ。それとも七星が相手だからだろうか。  それから金森は、その特別な『なな』を何故今城河が避けるのか、その考えを話した。それは慰めるためだけじゃなく、真実なのだと思う。 「樹がK中に入ってボクらがぶつかり合った後、ボクは今まで一緒にいたヤツらとは離れた。樹と一緒にいるほうが面白かったし。樹も仲間を作らなかった。でも、そういう樹をカッコいいと思うヤツらや、仲間に入れようとするヤツらもいて、勝手に周りに集まりだした、高校に入った今もそう。その中には、いいヤツもいるけど、(たち)の悪いヤツもいる。ななちゃん、あの時女子にわざとぶつかられたでしょ?」  七星は頷く。 「そればかりじゃなくて、反発しているヤツらもいるんだよ」  金森の険しい顔に危機感を覚える。七星のために城河のことを肯定してあげようと思ったけど、七星が危険ならやっぱり。 「えっ。それって危ないんじゃ。やっぱ、七星、城河に近っ――っいて!」  城河に近づいちゃだめだっ! そう言おうとしたら金森にぱちんっと口を塞がれた。 「ななちゃんには何もないと思うけど、何かあったら、オレが守るから……樹も、ね。だいくんもでしょ!」  やっと口が自由になる。 「あんたや城河になんか任せられるか! 七星は俺が守る!」  そう宣戦布告するが金森は聞いちゃいない。 「とにかく、樹とはもう一度話す! いいね? それでもダメだったらボクが慰めてあげるから」  冗談じゃない。そんないい役誰が金森になんか渡すものか。 「俺が慰めるから!」  絶対に渡さないとばかりに七星をぎゅっと抱きしめる。  勘のいい金森は。 「だいくん、あんた、ひょっとして……」  そして勘のいい俺も金森が何を言おうとしたのか分かった。   俺が七星を好きなこと。 (でも、あんたの口から言わせるわけにはいかない!)  俺はヤツの腹の辺りに拳をおみまいした。  ヤツの「うっ」という呻き声が聞こえてきた。       

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