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『なぜか金森の家にいる俺?!』
「また連絡するな。夏休みの間も遊ぼ〜」
夕方六時。七星の誕生日を祝う会はお開きになった。
俺は見送る七星の姿が見えなくなるまで元気よく手を振った。
暗い顔など見せずに。
本当はめちゃめちゃ気落ちしていたのに。
七星と二人だけの楽しい誕生日パーティー。
当初の予定は隣を歩いている男のせいですっ飛んだ。
一人でもなかったし、思わぬ告白大会で場は一時重苦しい雰囲気にもなった。どうにかまた誕生日祝いという空気に戻りはしたが、俺の心に暗い影を落とした。
七星が金森に絡まれて城河と顔を合わせた時、あの時からもうすでに嫌な予感はしていたんだ。
『家が近所で小学校時代が一緒だっただけ』
七星はそう言っていたけど。
そして、今日の七星、金森の告白で、七星と城河の間には強い絆があるのだと分かった。
今はまだお互い距離をおいているけど、もし金森のいうように七星が城河にぶつかっていったら? それに城河が応えたら?
(ぜってー敵わないな、俺)
たった四メートルの道路幅。それが七星と城河の距離。
俺はその距離を目にし、胸が張り裂けそうになる。
「だいくん? 大丈夫?」
隣の男が優しく気遣ってくる。
(大丈夫って、みんなあんたのせいじゃないっすか。あんたが来なかったらあんな話にならなかったんだ)
そう言ってやりたかった。でもそんなことも言えないくらいいっぱいいっぱいで。
「なんでも、ないっすよ」
そう言うのが関の山。それも涙声。
ずっと泣きたいのを我慢してきた。それなのに。
(くそっ、こいつの顔を見て泣きそうになるなんて……っ)
七星にするみたいに優しくされて。
「いいよ、泣いたって」
「泣くわけないじゃないっすか」
そう突っ返しながら視界は滲み始めている。
(俺になんかこんなに優しくしなくていいじゃんか。どうせ金森は七星のことが好きなんだから)
言葉だけじゃなかった。
ひょろっと背の高い男は、俺の肩を包み込むように抱きしめる。彼に優しく促されて俺はゆっくりと歩いた。
お互いの剥き出しの腕が擦りあって心地よい体温を感じさせる。それがひどく安心するような気がした。
(悔しいけど……この人は大人だ……自分の非を謝る潔さもあるし、他人への気遣いや優しさもある。それは俺も分かっているんだ。だからこそ、あんなふうにチャラそうにしてたり、悪ぶっていることに腹が立つんだっ)
**
今は彼に頼りたい気分だった。
めそめそ泣いている俺の肩を抱いてくれたり手を引いて歩いてくれたり、彼は俺の気持ちに寄り添ってくれた。
家に向かっているものだと思っていた。
見知らぬ家の大きくて立派な門の前。
きょろきょろと周りを見渡した。
「あれ? ここ見たことあるぞ」
田んぼの真ん中に突如として現れる豪邸だ。
小学校低学年の頃、俺と友だちの間で一時期流行っていた。
『お屋敷見に行こうぜ』と言って、この豪邸の周囲を一周回っていく遊び。
こんな田舎に何故本社があるんだという、大手食品会社『KANAMORIフーズ』の、社長宅だ。
『KANAMORIフーズ』は元は冷凍食品の開発製造から始まり、今やスーパーや弁当屋、ファミリーレストランなどを展開している。市内の高校の売店にはパンや弁当などを必ず卸しており、俺たちにも馴染みが深い。
そして、今俺の隣にいる金森明こそ、その『KANAMORIフーズ』社長の息子なのだ。
俺は達筆な文字で書かれた『金森』という表札を見、そして金森の顔を見た。
「はーい。ボクちゃんの家でーす」
急にまたチャラくなる。今までのこいつは夢か幻か。
「知ってるよ! この辺じゃ有名だろっ。KANAMORIフーズの社長の家ってさ。問題はなんで俺がここにいるかってことだ」
今まで流していた涙も引っ込んだ。
「なんで……って」
金森が首を傾げている。
「だいくん、さっき、まだ帰りたくない? って言ってたじゃん」
「え? 俺そんなこと言ってた?」
頭がぐるぐるしていて途中からイマイチ記憶がない。
「うん。あ、ボク言ったよ。だいくん、家どこ? 送ってくよって。そしたら、そう言うから」
うふっと意味深に笑う。
(なに言っちゃってんだ。俺)
俺は頭を抱えたくなった。
「この辺あまり行くとこないから、ボクの家に連れてきちゃった」
「……や、俺帰るから」
くるっと自分の家の方向に身体を向ける。ここからなら十分くらいだ。
その俺の両肩に金森は手を乗せて、耳元で囁いた。
「まぁまぁ、そう言わず、うち寄って来なよ。なんなら泊まって行ってもいいし」
「そんな急に!」
しかし。この豪邸の中がどんななのか、小学校の頃から気になっていたのだ。
これはチャンスじゃないのか? という悪魔の囁き。
「う……ん、じゃあ、ちょっとだけ」
俺は誘惑に負けた。
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