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『豪邸に潜入』

「うん」  金森は妙に嬉しそうな顔をした。 (なんだよ、なんでそんな顔をするんだ)  それから少し考える素振りをする。 「あ。じゃあ、裏のほうから」  その大きな門を離れて塀伝いに歩いていく。俺は懐かしい気持ちになった。 (そうそう! この壁のところをみんなでぐるぐる回ってたんだよな〜)  中はどんなだろうとか、どんなヤツが住んでるんだろうとか話しながら。今改めて考えてみると、何が楽しかったのかさっぱり分からない。  ここに住んでいるらしいという噂の男子に会ったのは――会ったというか、一方的に俺が見ていたというべきか――俺が小三の時だった。  当時彼は小四だったが見かけはもっと上に見えた。  背が高く手足も長い。きりっとした顔立ち。涼しげな目元。将来イケメンになりそうだなと思っていた。そして、野球がめちゃめちゃ上手い。強い。この時の五、六年なんて屁でもなかった。  俺は彼に憧れて小三春休みにK小野球クラブに入った。  しかし、クラブの人数も多く、学年も違う。彼が辞めるまでほとんど話したこともなかった。  だから、俺のことを覚えていなくても仕方のないことかもしれない――のか?  それでもまったく覚えられていなかったということが悔しかった。  俺は裏門に案内された。  裏門とは思えないほど立派である。 (規模が違う)  勝手口も普通の家の玄関先と変わらない。 「ごめんな、こんなところから」 (いえ、全然。うちの玄関より広いっす)  心の中で答えて、ぶんぶんと首を横に振った。 「表から入って、両親や(ひかる)に出くわしたりしたら気まずいし」  自分の家族に出くわすのになんで気まずいのか。金森がこんなだからか。それとも、一緒にいる俺が庶民だからか。 「ひかる?」 「ボクの弟。ボクと違って優秀なの」  そういえば二個下の弟がいるという話も聞いたことがある。私立にでも行ったのか、K中にはいなかったようだった。 (あんただって、じゅうぶん優秀だろうが。少なくとも小学生時代は)  金森の家庭環境がどんななのかはわからない。彼をこんなふうにしてしまった何かがあるのだろうか。 「あら、お帰りなさいませ、明さん。どうなさったんです? こんなところから」 「ただいま〜、芳子(よしこ)さん」  勝手口から入ると広いキッチンがある。そこに五十代くらいのエプロンを着けた女性が食事の支度をしていた。 「お友だちですか? お珍しい」  俺の顔を見てにこにこと笑う。俺はペコっと頭を下げた。 「あ、うん」  金森はそう答えたが。 (俺たち友だちじゃないよな〜) 「母さんたち、家にいる?」 「はい、奥さまだけですね。旦那さまは今日も遅いんじゃないんですか。光さんはお友だちの家に泊まられるそうですよ」 「そう」   少しほっとしたような顔をする。 「お食事はどうなさいますか?」 「オレの部屋に二人分欲しいんだけど。できたら連絡してくれる?」 「わかりました」  そんな突然の要望にも彼女は快く答える。 「え? 金森先輩、俺、いいですから」  俺は慌ててそう言った。 (なんで、俺が金森の家で夕飯食べなきゃなんないんだ) 「まあまあ、もう七時過ぎてるし、食べていきなよ。じゃあ、芳子さんお願いね」 「はい、承知いたしました」 (おい〜〜)  いろいろ突っ込みたいところだけど、『よしこさん』になんとなく温かい目で見られているので言えなかった。 (金森、友だち家に呼ばないのか? 城河とか)  こうして金森のことを知っていくと、ますます掴みどころのない人間だと思った。 「家族と一緒に食べなくていいんすか?」  キッチンを出て廊下を歩きながら俺は訊ねた。もし俺が来たせいだとしたら、少し申し訳ないような気がする。 「たいていいつも独りか食べないか、だから気にしないで」 (ほんと、金森の家庭環境って、いったい……) 「さっきの人は?」  会話の様子からすると、家族ではないようだ。 「ボクが子どもの頃からいる、住み込みの家政婦さん。ダンナさんもうちで働いてるんだよ〜」  さすがにこれだけ広い家には家政婦がいるんだと感心する。 (家政婦さんのいる家に来たのなんて初めてだよ〜)  キッチンは端にあるのか、進行方向に長い廊下が見える。左右に部屋があり、左は普通の開き戸の扉、右側は襖が長く続く。襖のほうは当然和室だろう。  少し進むと階段があり、金森が上がっていく。俺もそれについて上がった。二階は右側に窓、左側にドアが並んで見える。窓を覗いても暗くてよく見えないが、どうやら庭と門がある方向らしい。ところどころ足元にライトがあり、ぼんやりと様子が浮かび上がっている。 「喉渇いたよね」 「まぁ、そうすっね」 「あのさ、もう少し砕けた話し方しない? 同級生なんだから」 「同級生っていっても、中学までは先輩だったすからね。それにこれでもかなり砕けてるすっよ。本気で敬語使うならこんな中途半端なしゃべり方しないし」  俺は嫌味っぽく言ってやった。 「そう?」  へんな理屈とでも言いたげな表情で首を傾げた。 (あんただって、それ、素じゃないだろ。さっき『よしこさん』にはオレって言ってたし)    

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