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『続いて金森の部屋へ』

 金森はドアのない壁がくりぬかれただけの部屋の中に入っていく。  そこは普通の家庭サイズのキッチンだった。シンクとIHコンロ、食器棚、冷蔵庫、中央に四人掛けくらいのテーブルがある。 「へ? 二階にもキッチン?」  我が家は一階にキッチンがあるが、洒落たオーダーメイドの家なら二階にキッチンがあったりもするだろう。しかしこの家は二階キッチンがあるのだ。さすが豪邸とでもいうべきか。 「一階まで飲み物とか取りに行かなくていいのは便利だよね〜」  とか。 「小腹が空いた時なんかはここで簡単な調理もできるし」  などと金森は言う。 (生まれた時からここに住んでいる人間は言うことが違いますな〜)  少しばかりの僻み根性。 「金森先輩料理なんてできるんすかー」 「まぁ、少しはねー」  へらっと笑いながら言われ、よく分からない怒りのようなものが湧いてくる。 (くそっ金森のくせにっ)  悔しさ混じりに周りを見渡すと、壁に出っ張りがあり、縦横五十センチほどの鉄の扉がついているのが目に入った。横半分の位置に切れ目が入っていて、切れ目の少し上に取っ手がついている。 「なんすか、これ」  我が家はもちろん、どの友だちの家のキッチンにもこんなものはなかった。  俺は取っ手を掴んでがしゃがしゃ鳴らした。  我ながら行儀の悪い客だ。俺だったらこんな友だちがいたらどつく。 「ああ。これね。この下、ちょうどさっき入ってきたキッチンのところなんだ」  別に気を悪くした様子もなく、そう言いながら取っ手を上に上げる。すると、切れ目から上下に離れていく。中はステンレスに囲まれた空洞になっていた。 「下から上に料理を上げたり、空いた食器を下げたりとかする、二階建ての飲食店になんかある配膳リフトだよ」 「すげぇ〜」  俺は思わず言ってしまった。金森に関してはなぜか素直に褒めたくなくて、いつもどこか嫌味っぽく言ってしまうのに。 「さっきの頼んだ夕食もここから来るよ〜」  子どもにでも説明しているような口振りに恥ずかしくなる。 (俺は子どもじゃねーぞ) 「ねぇ、何飲む?」  金森はもうすでに冷蔵庫を開けていた。俺もその後ろから覗き込む。ずらりと並ぶペットボトル。缶。瓶。中身はほぼ飲み物で、玉子、ハムなどが少し入っている。 「すごっ。ほぼ飲み物じゃん」 「まぁ、基本食べ物は芳子さんが作ってくれるから。一番下には野菜とか果物が少し入ってるよ」 「おっ」  飲み物の中にアルコールを見つける。 「お酒入ってる。金森先輩も飲むんすか〜〜?」  にやにや笑いながら訊く。 「飲まないよぉ。未成年じゃん」  表情からすると嘘ではなさそうだ。 「案外、マジメなんすね」 「え? 褒めた? 褒めた?」  妙に嬉しそうだ。 「褒めてません! 未成年なんだから、それが当たり前!」  でも本当はちょっと見直した。見直したっていう時点で俺は金森に相当悪いイメージを抱いていたことが分かる。法律も守らないような。 (みんな、この外見とかしゃべり方とか、あといろんな噂のせいだな)  噂の中には本当のこともあるんだろうけど。今日聞いた話のように。 「じゃあ、俺、オレンジジュース」 「了解」  金森は食器棚からグラスを四つ出し、オレンジジュースとアイスコーヒーを注いだ。 (コーヒー飲むのか。俺は苦くてムリだけど。おっとなー)  今日の会では金森は突然の乱入のため、彼の好みのものは買わなかったななどという考えが頭に浮かび、 (いやいや、別にこいつのために選ぶことなんて。そもそも七星と二人でやるつもりだったし!)  慌てて打ち消した。 「だいくんどうしたの? なんか変な顔してる〜」  金森が間近で覗き込んでいた。 (うわっくそっなんで、こいつ変に整った顔してんだー)  ちょっとどぎまぎしてしまった。 (や、でも、昔はもっと凛々しかったよなー) 「なんでもないよ」 「そう? じゃあ、だいくんはこれ持って」  水のペットボトルを俺に差し出し、自分はグラスの乗ったトレイを持った。  キッチンを出て長い廊下を歩く。つき当たって左に曲がる。  そこが二階の端らしく、扉は一つだけ。 「はい。ここがボクの部屋でーす。どうぞ」  器用に片手だけでトレイを持ち、ドアを開けた。 (ずいぶん端っこなんだな)  でも部屋はけっこう広く、十畳くらいありそうだ。  俺を先に通しドアを閉めた。  それを見た途端、こんな気軽に入って来ちゃいけなかったんじゃないかという、ある予感めいた何かを感じた。しかし、それが何なのかは掴みきれなかった。    

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