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『俺たちは見捨てられたんだ』
「それから俺はK小のグラウンドで練習を見るようになった。あの頃あんたはもう小四とは思えないくらいの身長で、痩せてはいるけどしなやかな筋肉がついてて。野球が上手くて強くて、足も速くて……」
「褒めてる?」
すっかり毒気を抜かれたようにいつもの調子で茶々を入れてくる。俺は無視した。
「涼しげな目元、通った鼻筋。野球をしている姿が常に凛々しい。いつ見に行ってもグラウンドは、野球に興味なさげな女子たちでいっぱいだ」
「ボクのこと大好きじゃん。ていうか、だいくんにはそんなふうに見えてたんだ」
「憧れてただけだっ」
自分の気持ちを見透かされているような気がして、先手を打つ。
「ふうん。で、だいくんはもしかして野球クラブに入ったんだ?」
「そうだよ! 悪い?!」
食い気味に顔を近づけて言い放つ。いつの間にかテーブルの向かいから隣に移ってきていたことをこの時初めて気づいた。
「おわっ。なんでこんな近くにっ」
慌てて尻を少しずらして距離を取る。
「三年の春休みに入部しましたよっ。野球は友だちとの遊び程度にしかやったことないけど、初心者も多いし、なにしろ俺運動神経だけはいいですからねっ」
なんだかよくわからないマウントを取る。
「そっか。ごめん。全然気づかなかったよ」
申し訳なさそうな表情が意外だった。茶化されるかと思っていたのに。
「ですよねっ。高校で会っても俺の顔知ってる感じじゃなかったし、全然覚えてないんだろうなって思ってましたっ。あんたが入った翌年から入部者増えたって言ってたし、学年違うし、クラブのエースとペーペーじゃ接触もなかったし」
言いながらちょっと悲しくなってくるのは、たぶん俺は金森に覚えてもらってなかったことに傷ついていたんだなと気づいたから。
「あ、でも俺だけじゃなくて、城河のことも覚えてなかったな。野球やってるの知らなかったって今日言ってたもんな。何回か試合してたし、あいつもけっこう強かったのに。あんたは大好きな城河のことも覚えてなかったんだ! ざまーみろだ」
超厭味ったらしく言って、悔しまぎれに、ベーと舌を出す。
「ちょっと、ちょっと。まぁ確かに覚えてなかったけど」
苦笑い。
「あーじゃあ、もちろんあのことも知ってるんだ」
『あのこと』とは。
金森がなんのことを言っているのか、ピンとくる。
「それって……全国大会の県大会決勝前に、あんたが辞めたことですか?」
怒りが最高潮に達しそうなのをどうにか抑え込む。声が低く掠れ気味になる。
企業のスポンサーを持っている市内の強いチームとは違って、K小野球クラブは正直たいして強くなかった。しかし、金森が入部して三年目で奇跡的に小学生野球の甲子園とも言われている全国大会の決勝までいくことができた。しかし、試合直前で金森が辞め、K小野球クラブはぼろぼろに負けた。身体を壊したとか、そういったはっきりとした理由も分からないままだった。
俺たちは見捨てられたんだ。
県大会決勝までいけたのは、後にも先にもそれ一度きりだった。その後の入部希望者もかなり減った。
「悪かった、と思っては、いる」
「理由は? 理由はなんだったんだ?」
もし正当な理由があるのなら、俺は金森を許せるかもしれない。
しかし、中学に入ってからの金森や今の金森を見るにつけ、俺が許せるような理由があるとは到底思えなかった。
それに、今日七星の家で本人が言っていたじゃないか。
「なにをしても、おもしろくなかった」
金森の代わりに俺が答えてやった。
「野球……おもしろくなかったんだ……」
怒りから悲しみへ、俺の心は流れていく。
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