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『金森の理由』

「ごめんね……」  金森の謝罪は俺の考えを肯定していた。 「オレさ、昔から器用で要領よくてさ。なんでも人よりできちゃうわけよ」   謝罪とその言葉が繋がらなくて、なんの話をしているのか分からなくなる。 (なんだ? それは? 自慢かっ?!) 「ほら、だいくんがホレちゃうくらい顔もいいし」  自分の頬を撫でる。 「ホレてないからっ。憧れてただけだからっ」  なんだかもう言い訳するのも苦しい。 「しかも、KANAMORIフーズの跡取り息子だし。親もオレに期待していて、オレもそれを当たり前に思ってきた」  親の敷いたレールを歩く金森。今の彼からはまったく想像がつかない。 「でもオレは何に対しても熱くなれなかったし、おもしろいとも思えなかった。野球は……最初は少しおもしろいと思ってた。弱小の野球チームをオレが全国大会まで連れていけたら、気持ちいいかも、とか」  自己肯定感が高すぎる。でもこんなところは、さすが大企業の跡取り息子だと思わされる。 「さて、全国大会目の前までやってきた。オレは決勝で勝つ自信があった。そう思った途端、まったく興味がなくなったんだ。いや、本当は最初からたいして興味なかったのかもしれない」 「なんだってっ!」  金森が言わんとすることは最初から分かっていた。分かっていたのに、実際耳にすると怒りで震える。あの時のメンバーは、もしかしたら全国大会にいけるかもしれないと皆熱くなっていたのだから。 「さっきだいくん、オレのことめちゃ褒めてくれたろ? それで野球する姿が常に凛々しいって言ってくれた。そんなふうに見てくれていたのに、オレの心の中はいつも空虚だった。仲間にも試合相手にも興味が湧かなかった。だから、かな。だいくんのことも、樹のことも覚えてなかったのは……」  また怒りが湧き上がる。それと同じくらいの悲しみも。身体がふるふる震え、涙が出る寸前の鼻につんとくるような感触がする。 (なんか、めちゃめちゃ歪んでるな、こいつ) 「その後オレは親の期待に応えるのをやめた。反発したいわけじゃなかったけど、中学に入ってから髪を染めたり、気分じゃない時には授業にも出なかった。背格好が目立つせいか、すぐに先輩たちに目をつけられて、あー仲間になるのもありかなーとか思ってさ、いろいろやっちゃったんだけど。そんな時に樹に会ったわけ……あ、実際にはもっと前に会ってたんだよね?」 「俺たちにはあんたを熱くさせることができなかったけど、城河にはそれができたんだ……だから、あんたは城河のことが惚れたんだな」 「あ、うん、惚れ……」  途中で言葉を切って考え込む。『惚れた』という言葉自体は金森も使った言葉だが、微妙にニュアンスが違うことを察したようだ。はっとして手を顔の前で素早く振る。 「違うからね、そういう意味じゃないからねっ」 『そういう意味』ーーお互いその意味合いは合致しているはず。 「だって城河と同じ学年になりたいから留年したんだろ」 「だいくんこの間もそう言ってたけど、ほんとっ違うから!」   * *  金森は、七星のおでこにキスをするという衝撃的な日以来、時々二階テラスに現れ俺と七星の間のじゃまをしていた。 「そんなんだから、一年もう一度やることになったんだろー! ほんとは、もっとレベル高い学校に行けるはずなのに! ここで同じ学年になると思ってなかったーっっ」  金森と会うたびにぽろっと零してしまう例の一つだが、この時はかなり具体的に言ってしまった。 「だいくん、詳し~~ボクのこと、スキすぎでしょ〜」  そう思われても仕方がない。しかしめちゃめちゃちゃらそうに言われるとなんだか腹が立つ。 「好きなわけあるかーっっ!! そんなふうに、軽すぎるあんたなんかーーー」  この時はっと気づいたことがあった。 「まさか、城河と同じ学年になりたいからーーとかじゃないよな」  一瞬金森の顔が固まる。 「えーまさかーそんなわけないじゃーん」  どこか棒読み、目も泳いでいる。 「えっまさかっ」 (当たりかっ!)  そうまでして城河と一緒にいたのか。異様な執着を感じて、俺はざざっと金森から離れた。  金森は慌てて手を振る。 「違う違う。ただ~面白くなかっただけ~気がついたら、全然授業出てなかった~」  言い訳にしか聞こえなかった。 * *  俺はその時の金森の言葉を信じていなかった。

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