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『金森の誘惑に負けた』

(もっと、気持ちいいこと……)  本来ならここで止めるべきなのだ。蠱惑的な甘い声の誘惑と『気持ちいいこと』への興味で正常な判断ができなかった。頷きもしなかったが止める言葉も言わなかった。  金森はそれを肯定と捉えたか、迷っていると判断しても強引に押し進めようとしたのか。ちゅっと一度唇に軽くキスをすると、座った姿勢から俺を抱き上げた。 (おおーっ)  俺は心の中で驚きの声を上げる。よもや姫抱きされる日がくるとは思わなかった。 「思ったよりずっしりくるね」  立ち上がってから一度抱え直す。 「それは俺がデブだってことか」  ぷうっと頬を膨らませる。 「何可愛い顔しちゃってんの。そんなわけないじゃん。見た目小柄なのにってこと。さすがスポーツマン、筋肉質なんだろうなー」 (その俺を抱き上げてるおまえはなんなんだ! スポーツしてるわけでもないのに)  ひょろと細く見える身体で悠々とベッドに近づき、中央に下ろす。それからキシっと軽い軋みが聞こえ、金森も俺の前に座った。 「脱がせてもいい?」  いつものへらっとした顔ではなく、やや雄の顔を覗かせる。  どきんっと心臓が跳ね上がる。こうして見るとやはりこの男は格好いい。この顔で請われたらなんでも頷いてしまいそうだ。  そして頷いてしまった、俺。 (うわぁ~なに頷いちゃってんの〜)  そう思ってもあとの祭り。Tシャツの裾に長い、男のものにしては綺麗な指先が掛かり、ゆっくりとめくり上げていく。 「あ。下何も着てないんだ、やーらしー」  なんて言うから。 「別にやらしくないっ。女じゃあるまいし」  今日は暑いし、部活でもないからTシャツ一枚でいいやと思ったのが仇になった。  まるで狙っていたのがバレたような気分になってぷんっと怒ってしまう。よくよく考えたら、いや、よく考えなくても、まさかこんな状況になるなんて思わなかったのだから、別にそんなふうに思うことはないのだが。  ふふっと金森は妖しげな笑みを漏らす。そうしている間にもシャツは胸の辺りまできて、あとは手を上げないと抜けない。別に促されたわけでもないけど、俺は両腕をバンザイの形にした。  ここが最後の砦だったのに。ここで断固として脱がさせなければその先はなかったかもしれないのに。 (や、服着たままって手もあるか)  うだうだ考えている間にTシャツは脱がされ、ベッドの隅に置かれた。 「あーやっぱり綺麗だねー」  綺麗な指先が鎖骨から胸への真ん中への直線をつつーっと下りてくる。それから左右に移動する。ちょうど乳首の上辺りを。直接触れられたわけでもないのに、乳首がなんとなくむずむずするような感じがする。BL漫画なんかで乳首で感じているシーンを見たことあるが、実際初めて触られてそんなふうに感じるわけないと思っている。 (それなのに。なんだか……)  また胸の中央に戻って今度は下へ。臍のまで下りていく。 「腹筋も綺麗に割れてる〜。けっこう鍛えてるんだね」 (なんつーか、いやらしいんだよな、この綺麗な指が)  そこまでいくとその指は離れていった。  ほう……っと小さく息を吐く。  めちゃめちゃどきどきした。そこで止まってほっとしたのか、少し残念な気がしたのか、自分でもわからない。  しかし、ここで終わりなんかではないことはすぐに分かった。今度は金森が、透け感のある半袖シャツを脱ぎ、続いてタンクトップを脱いだからだ。 「おおーっ」  俺は小さく感嘆の声を上げてしまった。  分かっていたんだけど。今抱き上げられた時にも、その前に抱きしめられた時にも、硬い胸が頬や肩に当たっていたのだから。 「野球辞めても鍛えてるのか」  金森の胸に触れる。さっき金森が指先で俺に触れていたのとは違って掌でペタペタとまったく色気のない触り方をしたが、反応は思ったより悪くはなかったみたいだ。 「だいくん、擽ったいよ」  俺を見つめる瞳が情欲の色を帯びたような気がした。

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