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『だいくん、遊びましょ』
俺が好きなのは小学生の頃の金森明だ。
野球が強くて頭も良くてなんでも器用にこなす。俺と違って真夏の太陽に晒されても焼けずに色白で、涼しげで、凛々しい顔つきの少年。
俺の初恋だ。
だから、断じて今俺の家の前に立っているこのチャラい男、金森明ではないはずだ。
「だいく〜ん、遊びましょ〜」
俺は二階の自分の部屋の網戸をガラッと開けて外を覗き込み、
「だいくんって言うな〜」
いつものように叫んだ。
すると、玄関が開く音がする。
「明くん。おはよう」
という声がした。
(かぁちゃーん!)
「おはようございます」
にこやかな金森の声もする。
「どうぞ、入って」
(こらっ勝手に入れるなっ)
俺は網戸を閉めて、慌てて部屋のドアを開けるともうすでに金森は玄関の中にいた。
「おじゃまします」
「呼んでない!」
即座に言うが金森も母も気にも留めない。
「大地、お母さんお仕事行くからね。お昼作ってあるから明くんと食べて」
母はパートに出るところだったらしい。出かける用意をして金森を出迎えたのだ。
「ありがとうございます」
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
俺と金森は同時に言った。
「くそっ」
こうなったらもう家に上げるしかなかった。
俺は階段をバタバタ駆け下りると金森の横を通り過ぎる。
「上、行ってて」
「は〜い」
してやったりという顔にちっと舌打ちをする。
俺はキッチンでグラス二つに、冷蔵庫の中の二リットルペットボトルの緑茶を入れて、トレイに乗せて自室に運んだ。
部屋の中ではすでに六十センチ四方の家具調炬燵の前にして寛いでいる。もちろん今は真夏なので炬燵にはなっていない、ただのテーブルだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
俺は向かいに座り胡座をかいた。
「で、今日は何?」
「何って、だから遊ぼ~って」
金森の家に泊まったあの日、何故か金森は俺を家まで送ってきた。
「や、別に送ってくれなくていいから」
「だって、心配だから」
いったい、なんの心配をしているのだろうか。金森の家を出たのは午前中だし、身体を心配してもらうほどのことはしなかったのだか
ら。
「ここがだいくんの家か〜。けっこう近いね。ボクんちから十分くらいかな」
「そりゃあ、同じ学区だしね」
今にして思えば単に俺の家を知りたかっただけなのかもしれない。
家の前で話をしていると母が顔を出した。
「お帰り、不良息子。朝帰りか」
外泊したことを言っているのだろうか。女子じゃあるまいし。
「や、連絡したじゃん」
「『かも』ってなってたよね? どうするのか決まったんならちゃんと連絡しなさい」
こんなとこ金森には見られたくなかった。しかし、助け舟を出してくれたのは当の金森で、
「申し訳ありません、ボクが引き止めたんです」
にっこり笑いながら丁寧に言った。
なんだかいたたまれない。
金森の姿が目に入ると、母はざっと一歩後ろに下がる。それはそうだろう。百八十センチを超える長身に、オレンジ色の髪を後ろに結んだ男ーーかなり不審だ。
母は不躾に目の前の不審な男の顔を眺める。
「あなた……」
「ボク、金森明といいます。だいくんとは高校が一緒で」
「あ、金森さんちの息子さん?」
この辺りで金森家は有名だ。特に小学生時代の『金森明』は母親たちの間でも人気者だった。そして、その後の落ちぶれようもかなり噂になっている。
だから最初は母も俺がヤツとつき合いがあることを心配していた。
しかし、それから何度も家に来て会話を交わすうちに、見た目はアレだけど中身は悪い人間ではないのだと分かり、今では俺の承諾もなしに家に入れてしまうのだ。
あの日以来、金森は何故か俺を構ってくるようになった。
部活のない日は朝から。部活があっても午前中で終わるので、午後から。週に二、三度は家にやってくる。
俺も最初は「また来たのか」と嫌そうにするが追い返しきれずに、結局は金森と過ごしてしまう。
金森はいつもバイクでやってくる。そのまま俺の部屋で過ごしたり、バイクを置いて遊びに出かけたり、それからまた金森の家に行ったりもした。
免許を取って一年経たないと人を乗せることができない。金森は悪そうに見えて、そういうことは普通に守れる人間だった。
「ゲームでもする?」
あまり二人でいすぎるため、もう目新しい話題もなく、俺の部屋でも過ごし方は専らゲームだ。
「やろうやろう」
金森は普段テレビゲームはやらないらしいが、やらせるとなんでも上手くこなせてしまう。
(やっぱ、ムカつく!)
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