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『言葉がないからわからない』

 夏休みが終わると、俺と金森の間に少しだけ変化が起きた。  俺と七星が一緒に昼休みを過ごしているところに毎日のように現れるようになった。夏休み前までは時々だったのに。  二階テラスだけでなく、中庭の木陰にいる時も、彼は探し当ててやってくる。  という(てい)を装ってやってくるわけだが。  実際は四限が終わるとすぐに『今日はどこ?』とラインがきて、俺がそれに答えている、という寸法だ。  鈍感だと思っていた七星が、案外敏感に俺の金森への態度の変化を感じ取っていた。  「仲良くなったんじゃない?」と言ってきた。  もちろん俺はそれを否定する。  七星にはぜったい知られたくなかった。俺と金森の間にあった様々なことを彼が知って、「不潔ー」なんて言われた日には立ち直れる気がしない。  しかし金森のほうも俺にふざけて抱きついてきたり、俺が七星を好きだと感じさせる態度を見せると軽く嫉妬心を見せてもくる。でもチャラさに紛れていて本心はよく分からない。  放課後、金森は俺が部活をやっている姿を頻繁に見にくるようになった。木陰に座って一人眺めている。時折、柄の悪そうなヤツらと話しているが、すぐに追い払うような仕草をする。俺たちに迷惑がかからないようにだろうか。  遠くから見ているのにどこか熱い視線を感じることもあって、俺はそれにどきどきと胸を高鳴らせる。  部活が終わる頃、金森はそこから姿を消す。  部室で着替えていると同じ一年生の仲間が言う。 「また、見てたな」  誰とは言わないが金森だということは分かりきっている。金森のことを怖いと思っている生徒はままいる。 「大丈夫なのか、大地」  仲間は心配してくれている。でもそんな時俺は平然と答える。 「全然平気! 金森そんなに悪いヤツじゃないよ」 「そう? まあ、おまえがそう言うのなら」  自分に直接被害がないのなら皆それ以上は深入りはしてこない。   「おつかれ〜」 「おつかれ」  一年生の仲間がまとめて部室を出ていく。俺は少しだけ彼らよりも遅く出る。  何故なら校門付近で金森が待っているから。  部活が終わると俺たちは一緒に帰る。  顔を合わせると「待ってなくてもいいのに」と憎まれ口を叩いてしまうけど。  金森がグラウンドの隅の木陰に姿を現した最初の日。やはり部活が終わる頃に姿を消していた。  なんだ、帰ってしまったのか、と少しだけがっかりしたけど、校門の陰から姿を現した。 「一緒に帰ろ〜」 「わ、なんでいるんだっ!」 「だいくんと一緒に帰りたかったんだ」  夏休み前は金森と城河が一緒に帰っていく姿をグラウンドから何度か見かけたことがあった。 (城河と帰らなくていいのか? 俺と一緒に帰りたいって本当?) 「俺は別に一緒に帰りたくないけどっ」  本当は嬉しかったのに本音が言えない。 「だいくん、つめたいっ」  いつものツッコミが入って、俺たちは並んで歩き始めた。  毎日ではない。  でも少なくとも週に三日くらいは一緒に帰るようになった。  金森が自分の一日の一部を変えてくれて、俺たちの距離感は少し縮んだように思えた。  しかし、俺が態度で彼のことを好きだと示せないとか、本音を言えないとか、それには理由がある。  もちろん七星の前でそれを晒すのは恥ずかしいというのもあるのだが。  金森がまったく姿を現さない日もあり、特に連絡も寄こさない。  男女のラブラブカップルじゃあるまいし、男同士がそんなにべったりすることもないのかもしれない。  しかし、それよりも何よりも、だ。  その大前提として。 『俺たちはつき合っているのか?』  という疑問にぶち当たる。  金森は言葉で何も言わないし、だから俺も今の金森が好きだということは言えていない。  初めて金森の家に泊まった翌朝。  俺のことが好きなのかと、一度聞いたことがある。その答えは、気に入ってはいるけど恋愛感情はまだない、というニュアンスだった。  その後夏休みの間何度も会い、恋人同士にも似た触れ合いを重ねてきて、今に至る。  果たして、金森の心には何かしらの変化があったのだろうか?  その問いを、俺は怖くてぶつけられずにいる。      

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