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『金森のバースデーはなんと!』

「だいくん、二十四日ってなんの日だかわかる?」  十二月二十四日の十日前、部活が終わって帰途に就く。隣を歩いている金森がわくわくした様子で言う。 「十二月二十四日……」  これは考えるまでもない。  日本中が一か月以上も前から騒ぎ立てる、あれだ! 「クリスマスイヴだな」 「うんうん、他には?」  めちゃめちゃ期待の眼差しで見てくる。 (他?) 「えーっと、終業式?」 「うんうん。他には!」  顔がぐぐっと近づいてくる。俺はそれを片手で押し退ける。 「おいっ前を見て歩け! 危ないだろっ」  金森を注意しながら首を傾げる。 (他〜?)  まったく思いつかなかった。 「じゃ〜ん、なんと!」  我慢し切れなくなったヤツが自ら答えを明かすことにしたらしい。 「ボクちゃんの誕生日でーす!」  俺に向かって両手を大きく広げる。 「だから、危ないって!」 (金森の誕生日なのか! それは知らない情報だ)  妙なことは知っているけど実は基本的な情報は知らなかったことに気づく。 (ずいぶんめでたい日に……や、偉人の誕生を祝う日で本来もっと厳かなはず。ま、イヴだから前日だけどな) 「あ、おめでと」  俺は素っ気なく言った。 「いやいやいや、まだ全然早いって! 当日言ってくれなきゃ〜」  金森は子どもみたいに地団駄を踏む。 「おおー。で、その日が?」 (俺と祝ってほしいとか?)  密かに期待したけど。 「ななちゃんも誘ったから、クリスマスパーティー兼ねてお祝いしよー」 「自分で言うか!」  別に七星と一緒なのが嫌だというわけではない。でも、金森が俺のことをどう思っているのか分からないのはこういうところなのだ。 (誕生日って恋人と二人で過ごしたいものじゃないか? それもクリスマスイヴつきの日だよ? それとも俺が夢見すぎなのか?)  横を向いて小さく溜息を()く。 「城河も来るのか?」 「一応誘ったけど、返事貰えてない」  微妙な顔をしていた。  七星と城河の間にも少し変化が起きていた。  七星の誕生日の日に金森がアドバイスしたように、七星は城河にぶつかっていったのだ。  一度目は、城河の誕生日の翌日にヤツに誕生日プレゼント、これまで渡せなかった分もすべて渡してきたという。  しかし、この時は『もう俺にプレゼントを用意するな』と突っぱねられたらしい。それでも渡したプレゼントは突き返されなかった。  そして、二度目。  これは七星には相当勇気のいることだろう。  登校時の校舎までの道筋で城河に声を掛けたら無視されたので、背中をバシッと叩いて大声で言ったのだ。 『いっくんっっ! 僕、こんな傷なんか、全然気にしてないんだからーーっっ!!』  七星は少しもさっとしていた髪を切り揃え、傷を隠すために伸ばしていた前髪も切った。そして、この時更に自分の額の傷が確実に見えるように、前髪をスリーピンで留めていたのだ。  もちろんギャラリーはたくさんだ。  その中に俺もいた。  まさか、七星がここまでやるとは思わなかった。そうまでして城河との仲を修復したいのだ。 (頑張れ、七星!)  今はそう応援してあげられる。  でも俺はあくまで七星の味方だから、もし城河が七星を傷つけることがあれば俺は許さない。  城河は振り返り、七星のスリーピンを一つずつ外した。城河の表情がいつもよりも少しだけ柔らかく、七星に何か話しかけていた。  そんな二つの出来事の末、めちゃめちゃ二人の間が近づいたわけではないけど、城河は七星を避けなくなった。たまには昼休みにも姿を現すようになった。俺たちの輪からは少し離れた場所に座るし、話に加わるわけでもないのだが。  そんな感じだから、当然金森は城河のことも誘うだろうとは思っていた。 * *  十二月二十四日。  俺たちは終業式を終えると一旦家に帰った。なんの配慮だか今日は全部活の活動がなく全生徒一斉下校だった。  午後五時に最寄り駅の南口で待ち合わせをした。  言い出しっぺの金森が遅れてきて、そして、城河が姿を現さないまま出発した。 (んん?)   金森からはなんの説明もなく、七星がひどく不安そうにしている。城河が来ないのかきっと気になっているのだろう。俺が聞いてやろうかと思っていたところ、七星が自分で口を開いた。 「メイさん……いっくんは来ないの?」 「あ~……うん。ちょっと忙しいみたいで」  なんとなく怪しい。何か企んでいそうで。 「あ……そうなんだ」  一気にがっかりしたような顔をする。 (女と一緒なんじゃないかとでも思ったか?)  七星の思考を読み取る。俺の考えはちょっと違うが。 「あ、違うよ! 女のコとかじゃないよ」  その言い方がすでにそうだとでも誤解させるような感じだ。わざとだな、と俺は思った。 「え、なんか、あやしー」  俺がそう言うと金森は慌てたように、 「ほんと、ほんと。さーこっち、こっちー」  と棒読みで促した。  俺たちはT高へ行く道を歩き、途中で住宅街に入った。  金森が立ち止まったのは『BITTER(ビター) SWEET(スウィート)』という店の前だった。

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