34 / 42

『Merry Christmas&Happy Birthday』

 『BITTER SWEET』で俺たちを出迎えたのは城河だった。  城河はもちろん『女のコと一緒』だったわけではなく、クリスマスイヴの忙しい店で働いていたというわけだ。  BITTER SWEETの店長は金森の親戚だった。金森の名で予約をしていることを店長と結託して、城河には内緒にしていたらしい。  そして、もう一つ内緒にしていたことは、十時までのシフトの城河を一時間早く上がらせることだ。金森は誘ったと言ったが、城河のほうは祝う気などさらさらなかったのだろう。今日のバイトはいい言い訳になるはずだったのだ。しかし、金森のほうが一枚上手だったのかもしれない。 (こういうとこ、やっぱり頭まわるよなー)  変なところに感心してしまった。  店長に押されてしまったら従わないわけにはいかなかったのか、九時を過ぎて渋々やってきた城河。渋々だったわりには腹が減っていたのか料理をがつがつ食べ、そしてちゃんと金森に祝いの言葉を贈った。 (結局最後までは悪ぶれないヤツなのかもな)      十時で『クリスマスと金森の誕生日を祝う会』はお開きとなった。  金森が城河を無理矢理会に加わらせた真の目的は、実はこの先にあったのではないかと思った。  俺と金森、七星と城河は乗るバスが違う。  といっても最初は城河は自転車で帰るつもりだったのだ。そうなると七星が一人になってしまう。金森は「一人だと危ないから一緒に帰りなよ」などと言って上手いこと丸め込んで一緒に帰らせた。  城河との仲を修復したい七星に協力したのだろう。  最寄り駅の北口ターミナルで俺たちは別れ、それぞれのバス乗り場に向かう。 (七星、少しでも城河と話ができるといいな)  そう思いながら、城河の後ろを歩く七星の背を見送った。    最寄りのバス停に着いた。  俺たちは並んで歩き、バスの通っている大通りから田んぼの中の細い道へと進んでいく。  時刻はもうすぐ十一時くらいになろうかというところで、どちらかといえば田舎な場所のこの時刻に人通りはない。それを確かめてから立ち止まって声をかけた。 「金森先輩」  金森は立ち止まって俺と向かい合った。 「なぁに? だいくん」  俺は金森の左頰にそっと触れた。 「少し腫れひいたかな」  待ち合わせに遅れてきた金森の頰は左側だけ腫れていた。理由は言っていなかったが、おそらく親と何かあったのだろう。 『たんじょーび、クリスマスときたら、家のほうでは盛大なパーティーでもしそうじゃないですか。社長さんの息子ともなれば』  からかうように言ったその言葉に一瞬だけ微妙な顔をした。  金森の家庭環境を考えたらこんなこと言うべきではなかったのだ。しかし七星が『社長の息子さん?』と訊いてきたことでこの話題はそこで終わらなかった。金森がKANMORIフーズの社長の息子だということは校内ではそこそこ有名な話だが、七星は知らなかったのだ。俺は胸をちくちくさせながら軽く説明をした。 『不肖の息子ですからねー。他に立派な跡取りがいるんで、ボクはいてもいなくてもいいんですー』  珍しく自嘲気味な笑みを浮かべた金森に俺の心は痛んだ。そのことがずっと心に引っ掛かっていたのだ。 (七星は悪くない。俺が全部悪い)  俺の手の上に金森が手を重ねてくる。 「だいくんが手で冷やしてくれたからよくなったよ〜」  最初にその赤くなった頬を見た時も今と同じように頬に触れた。確かにその時の俺の手は寒い中待たされて冷え切っていたけど、そんなにずっと触れていたわけでもないし、手で押さえた程度じゃなんの役にも立っていなかっただろう。 「そんなわけないだろ」 「ほんとだって」 「俺……余計なこと言ったよな、ごめん」  あまりにも俺がしょげていたせいか、よしよしと頭を撫でてくる。 「だいくん、けっこうオレのこと気にしてくれてるんだな、嬉しいよ」  突然の『素』に俺の心臓がどきんと波打つ。 「金森先輩……俺たち……」 (どういう関係なんだ?)  そう言おうとしてーーやめた。  あの時と気持ちが変わってなかったらと思うと怖かった。 「そんなわけないじゃん!」  いつものように憎まれ口を叩いてから、俺はボディバッグの中からガサゴソとリボンのついた包みを出した。 「お誕生日おめでとうーーそのぉ、あんたが何ほしいかわからないし、どういうのが趣味なのかイマイチわからないし……てきとーに選んだから気に入らなかったら捨てて! あと、金あんまりないから安物!」 『おめでとう』より先は超早口で言い放った。 「だいくん、ありがとう」  素の金森は普段のチャラ男よりも声が少し低い。俺はこの声がけっこう好きだ。 (こんな声で好きだって言われたら……)  金森は俺の手ごとプレゼントを包み込み、手の甲にキスをした。  俺は顔が真っ赤になっているような気がした。街灯は遠く、ここは薄暗い。そんな顔が金森に見えていないといい。 (ほんと、そういうとこだよ、勘違いしちゃうのは)  金森はプレゼントを受け取ると、ふっと宙を仰いだ。 「あ……雪」  なんと雪がちらついてきたのだ。この辺りでは雪はあまり降らない。しかもクリスマスイヴともなれば、かなりレアだ。 「クリスマスイヴに雪って、ロマンチックだな〜」   俺はもっともっとロマンチックな展開を望んだがそれは叶わなかった。 「寒いから帰ろうか」 「だな」  俺たちは再び並んで歩き出した。   (七星たちもこの雪見てるのかな。城河とどんな話をしているんだろう。上手くいくといいな……俺たちは……)  

ともだちにシェアしよう!