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『願いごと』
初めて乗ったバイクの後ろは正直怖かった。
振り落とされたらどうなっちゃうんだという想像が頭に浮かび、恐怖のあまり叫びそうになる。しかし、それは恥ずかしいと思い、代わりに金森にぎゅうっとしがみついていた。
(ぜったい離すもんか)
好きな男の背に顔を埋めるというキュンなシチュエーションにもかかわらず、色気皆無だ。
目的地には三十分掛からずに到着した。
H神社の駐輪場で俺は金森の助けを借りて降りた。足はがくがくするし、息はぜーはー忙しない。
「だいくん、大丈夫?」
大丈夫! と言いたいところだが、
「だ、だいじょーぶなわけ、ない」
声も切れ切れで本音を漏らす。
「そのうち慣れるよ」
(そのうち? そんなに何度も乗せてくれるのか?)
やっとキュンできるくらいには落ち着いてきた。
金森はバイクを駐輪場に並べるとまだふらつく俺の肩を抱いて神社の外に出た。
隣に公園があって、七星が待っている。こんなふうに肩なんか抱いて歩いていて大丈夫なのか? と思ったが、七星は何故か心ここにあらずといった感じで、公園内をぐるぐる回っていてまったくこちらには気づかない。それに、抱いていた腕は自然に外されていった。
急に寒さを感じたような気がした。
「七星!」
声を掛けながら七星の目の前までやってきてもまだ気づかないので、下から覗き込んで顔の前で手を振る。
「七星〜何ぐるぐる回ってるの〜?」
俺たちは合流して、もう一度神社に向かう。
七星はちらちらと金森を見ていて何か言いたげな様子だ。
「メイさん……あの、いっくんて……」
なるほど、と俺は思った。おそらく公園でぐるぐるしながら考えていたのはこのことなのだろう。
「あー。樹、今日バイトだって」
「もうバイトしてるの?」
「あそこ、モーニングもやってるからね。元旦の朝はけっこう混んだらしいよぉ。昨日は休みだったみたいだけど、ボクのほうがダメだったから、ごめんね」
そう言って七星の顔を覗き込む。七星はぶんぶんと頭を振っていた。
(いちいち近いんだよ!)
七星に恋愛感情はないと言っていたが距離感が近すぎて、なんとなくもやっとしてしまう。
鳥居の前までくると慣習に倣って挨拶をする。
金森が立ち止まって背筋を正して礼をする、綺麗な横顔を見てから、俺たちも真似をする。
(ほんと、こういうこと……)
なんでもよく知ってて意外と礼儀正しくて、育ちの良さを感じさせる場面に何度か出くわす。一度地に落ちた株は、ちょっとのことで跳ね上がってくる。
「もうけっこう並んでるねぇ」
鳥居をくぐり参道を進むと六列に並んだ人垣にぶつかる。先頭までは五メートルほどはありそうだった。
「こんな朝早くに? 信じらんねぇ」
ぶつくさ言いながら俺たちも最後尾につく。七星、俺、金森の順に横並びになった。
「まぁまぁ、ボクらもその朝早くに来てるじゃん。同じこと考えている人がたくさんいるってことだね。ゆっくり待ってようよ」
朝早いほうが空いてるんじゃないかと思っている人、あとは初詣をしたあとに出掛けようと思っている人など、案外多いのかもしれない。
金森の言うとおり、ここはゆっくり待つしかなかった。
他愛ない話をしながら少しずつ進んでいく。
冷たくなった手に何かが触れた。
(んん?)
どうやら金森の手らしい。割とぎゅうぎゅうに並んでいるので、ぶつかってしまったのだろう。
そう思っていたが、その手は俺の手に絡んできて、そのまま後ろに回された。
(これは、偶然のわけがない!)
「なにやってんだ!」
俺は声を出さずに口パクだけで言った。
「大丈夫、混んでるから。誰も見てない」
耳元で囁いてくる。
「そんなわけあるか! 七星に見られたら!」
またもや口パク。
「大丈夫、大丈夫」
今度は金森も口パクだ。そして、更にぎゅっと握ってくる。
俺は羞恥と見られるのではないかという不安で顔が熱くなる。ちらっと七星を見ると何か考えごとでもしているのか、前をじっと見つめていて、こっちのことには何も気づいていない。
俺はほっとしたが、すぐにはっと気がつく。
(や、後ろの人間が見てんじゃねぇーのか!)
手を繋がれたままようやく先頭までやってきて、俺たち三人とその他三人で拝殿に向かい合う。
会釈し鈴を鳴らし賽銭を入れ、二礼二拍手をする。これも金森の真似をする。それから手を合わせる。
(何を願う?)
実は何も考えていなかった。
(金森と上手く……)
そう思いかけて、
(いや、もう、だめでも、金森がはっきりしてくれますように!)
何願ってんだ、俺、そう思いながら一礼してさっと移動した。
心の中も自虐的な俺。とほほな気持ちだ。
金森はもう先に移動していて、七星はまだ願いごと最中だった。
(たぶん、城河とのことでも願ってるのかな……)
俺は上手くいかなくても、七星は上手くいってほしいなと思いながら待っていた。
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