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『微妙な感じでロマンチック』

 堤防脇のコンクリートにバイクを置いたまま、少し先の階段を降りる。  まったく人がいないということもなかった。長い砂浜にぽつんぽつんと人影が見える。しかし、俺たちの周りには誰もいない。 「もっと波打ち際に行ってみる?」 「えー寒いよ」  俺が文句を言えば肩を抱いてくる。  とくんと胸が鳴るが、人目のほうが気になってしまう。 「おいっこんなとこで」  肩を捩って外そうとする。しかし、俺の肩を抱く手の力が強く外れない。 「大丈夫、大丈夫。近くには人いないし、誰も見てないから」  七星もいた時とは声の調子が少し変わったのを感じた。甘みを帯びてきている。 「そおかぁ?」 「そうそう」  確かにさっきも確認したように遠くに人影が見えるものの、近辺には人はいない。おそらくこのあとはもっと少なくなるだろう。  波打ち際に近づく。  俺を抱く腕は途中で離れたが、自然と手が絡んできた。俺はもう何も言わない。  時折思ったよりも波が攻めてきて「きゃあ」とか「おわっ」とか言いながら慌てて下がる。もちろん手は繋いだままだ。 (なんだ、これ。なんか、楽しい) 『海なんか』と最初はぶーたれていたが、だんだんとテンションがあがってくる。 (めちゃめちゃ楽しい! それになんだか……)  しばらく波と戯れてから波打ち際からは少し離れて砂浜を歩く。  特に目的とかはないらしい。  金森が静かだ。いつものへらっとした調子のよい雰囲気は薄れている。今日の服も相まってぐっと大人っぽい。  そんな綺麗な横顔を見て、俺はさっきからどきどきしている。 (……なんか、これってデートしてるみたいじゃないか? まるで恋人同士みたいだ)  さっきも浮かびかけた言葉だが、調子に乗っちゃいけない、金森はそんなつもりじゃないかも、と自分を律し頭の中でさえ言葉にできなかった。それを今、完全に言葉として形にしてしまったのだ。そうしてしまうとさらにどきどきが増し、増しすぎて余計なことを口にしてしまう。 「こんなの、なんかデートっぽい。彼女とすればいいじゃん」 (何言ってんだ、俺。こんなけんか腰に)  金森に対してあわあわすると、何故かけんか腰になってしまう癖はまったく直らない。  金森は立ち止まって俺の顔を見下ろす。夕陽が当たって何処か寂しそうに見える。 「オレ……彼女なんていないよ。今までいたことない」 「え?」  彼女がいないのは嬉しい。しかし、大きな疑問が。 (じゃあ、誰とセックスしたんだー! 彼女でもない女とかー! 爛れてるー!!)  叫びたかったが、こんなところでそんな言葉を叫べるはずはない。それに好きじゃなくてもセックスできる人間なんだと思うと、自分の立場を重ねて、めちゃめちゃ悲しくなる。  金森は俺の両肩を上からぐっと押さえた。 「だいくん、オレ……」  真剣な眼差しが注がれる。 (な、なに)  どきどきが復活。  俺は金森の目を見つめ返して、言葉の続きを待った。数秒の沈黙の(のち)、目の前の男は何も言わず視線を逸らした。  それから何事もなかったように。 「あ、だいくん。あれ見て、水族館だよね?」  急にいつも通りの、少しトーン高めの声になる。 (ったく、なんなんだよ) 「あ、そうだな」  見覚えのある建物だった。  バイクに乗っている間はずっと目を瞑っていたし、ここに着いてからここがどこかも聞いていなかった。 (なんか、見たことある景色だと思った)  県内でもたぶん結構有名な水族館だ。小学校の遠足で来たこともあるし、家族でも来たことがある。 「だいくんは水族館好き?」 「え? まぁ」  巨大な水槽にたくさんの魚。頭の上を泳いでいる巨大な魚。子どもの時は確かにわくわくした。 「じゃあ、今度行こうか?」 「いいよ」  俺は即答した。深いことは何も考えていなかったが、金森は嬉しそうに笑う。それを俺は不思議に思った。 「なに?」 「いや〜即答してもらえるとは思わなかったから。だいくんのことだから、何かしら突っかかってくるかと思って」 「じゃあ、いかないっ」  俺のこと全部分かってる風に言われて、異常に恥ずかしくなる。お望み通り突っかかってやった。 「まあまあ、そう言わずに行こうよ」  それには答えず、ぷんっとそっぽを向く。 「そろそろ暗くなってくるね。戻ろうか」  上着のポケットからスマホを出して時刻を確認する。もうすぐ五時になる。 「そうだな」  そのままスマホをしまおうとしたら、金森に取り上げられた。 「せっかくだから写真撮ろうよ」 「自分ので撮れよ」 「いいじゃん、手元にだいくんのがあるんだから」 「しょうがねーなー」  背の高い金森が操作する。インカメにして海をバックに、肩を抱かれたまま撮られた。 「じゃあ、あとで送ってくれる?」 「了解。だけど、誰にも見せるなよ」  金森からスマホを受け取る。画面を確かめたくもなかった。 「はーい」  俺たちは再び砂浜を歩き始めた。  空はピンク色から青色へと変わっていく。  隣り合ったほうの指先が絡み合う。 (状況だけみれば、めちゃめちゃロマンチックだよな……)  ちょっと溜息()きたくなった。

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