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『本当の金森は?』

「それってドーユー好きですか?」  怒りも吹っ飛ぶような発言に片言のような日本語を発してしまう。 「どーゆー?」  そこで金森は考える素振りを見せる。 (そこで考えるのかーい。ぬか喜びはさせんなよー)  思ったよりも長考。本当はほんの一分程度かもしれない。でも待ってる時の一分って長く感じる。 (なっが〜いっ。答えられないなら言うなよ!)  握っていた拳がふるふる震える。 「なーんてね」   そう言ったかと思うと、がばっと抱きついてきた。 (おわっ) 「こーゆーのって、なんか照れるーー好きだよ、LOVEの意味で」  耳元に熱い吐息。甘いけど、少し震えているような声。どくどくいう胸の音は俺だけではなかった。 「だいくん……だいくんは、オレのことどう思ってる?」  いつも自信ありげな金森が不安げに言う。 (なかなか答えなかったのはで、金森も不安だった? 俺がなんて答えるのか)  こういう場面に慣れていそうな気がしていたのに。 「俺は……」  俺の声も震えて掠れている。 「俺も……あんたが好きだ。過去のあんたじゃない、今のあんたが好きだ」 『初恋だった』とぶちまけた時以上に勇気のいる告白だった。  耳元でほ……っと安堵の息が漏れ、俺を抱きしめる腕にさらに力が籠もる。 「ねぇ、キスしてもいい?」  初めて俺にキスしてきた時も突然だし、それ以降もこんなふうに訊いてきたことはなかった。こんなふうに確認してくる自信なさげな金森がおかしくもあり、初々しくも思えた。  もちろん答えは、 「いいよ」  だ。  暗くて俺がどんな表情をしているのか金森には見えていないかもしれない。目を瞑って金森のキスを待つ。  唇はそっと下りてきてすぐ離れた。  激しいキスももう慣れていた。それなのにこのキスは涙が出そうなほど嬉しかった。  でも俺はくすっと笑ってしまった。 「どうしたの? 何かおかしかった?」  俺の笑い声が聞こえていたのだろう。不思議そうに言う。 「なんか、あんたらしくないって思って」 「オレらしい……か」  ぽつんと漏れた声がどこか自嘲気味に聞こえた。 (金森らしい……か。よく考えたら、本当の金森って……)  俺の初恋の金森も本当の姿じゃなかった。今のチャラい金森も装っている部分が大きい。たまに見せる『素』だと思っている金森もどこまでが『素』なのか。  よく考えたら俺は金森のことを本当に分かっているのか疑問だった。『あんたらしい』とか俺に言う資格あるのだろうか。  ぎゅっと抱きしめられていた腕を片側だけ解かれた。抱き込むように片方の肩を抱かれ、金森は海の方向を見ている。 「オレさ、今まで恋愛的に人を好きになったことがないんだよ。だいくんには嫌な話だけど、これまで抱いた女のコにも特別な感情はなかった」 (うっ)  この話題になるたびに俺の胸はもやる。自分もそんな感じで触れられたかと思うと。 「でも性に興味のあるお年頃だからさ、誘われれば……ね」 (ね……っあんたっ。っていうか、俺は誘ってないから!)  俺の心の叫びを読んだかのように金森は言った。 「だから、さ。オレから触れようとしたのは、実はだいくんが初めてだったんだよね」 「えっ」  ついに声に出してしまう。 「それに、それは一回きりじゃなかった。自分から会いに行って、自分が触れたかった」 「……今まではそうじゃなかったのか?」 「何度か同じコには誘われたけど、二、三回くらいかな」  俺的にはそんなにかよ、と思ったけど金森の中ではそれはそんなに大したことではないようだ。確かにその中でいったら俺とそうなった回数は多いのかも。  素直に喜べはしないけど。 「城河にも自分から行ってたみたいじゃないか?」 「あ、そうだね。樹はオレの初めて一緒にいたいと思った相手かも」  またもやもやっとしてくる。 「でも樹には一度も触れたいって思ったことないよ。想像したこともない……オレ、ゲイじゃないって言ったろ」  そこは引っかかるところだ。ゲイじゃないのに男の俺を好きになるなんて。 「もちろん今まで男のコに触れたいとか抱きたいとか思ったことないわけよ。だから、あの時点でだいくんはもうオレの特別だったんだって、オレ自身あとから思ったんだ」 「え? そうなのか?」 (あの時から……)  俺はただの興味本位で触られたのかと思っていたのだ。 「もう一度言うけど、オレ、誰かをLOVEの意味で好きになったことがなかったから。だいくんのことをそういう意味で好きになってるって確信が持てなかった。だから、一緒にいながらずっと考えていたんだ」  金森の真剣さが伝わってくる。 (俺のことそんなふうに考えていてくれてたのか……) 「たくさんたくさん考えて、やっぱりそうなんだって確信が持てるようになって、告白する機会をうかがっていたんだよ。あと、だいくんは今のオレより昔のオレのほうが好きみたいだったから、すごく勇気がいったんだ。本当のオレなんて、実はけっこう情けない男なんだ」  金森の告白にじわっと心が温かくなってきて、じわっと涙が滲んできた。

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