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『春休みに水族館に行きました』
あれから何回か金森のバイクの後ろに乗って、少しは慣れたけど相変わらずぎゅっと背中に抱きついている。こうしているとめちゃめちゃ安心感がある。
一年後にこんな展開が待っているなんて入学前の俺は思ってもいなかった。なにしろ、金森がT高に入学したことも知らなかったし、しかも同じ学年になるなんて思いもしなかったのだから。
『春休みになったらどこか遊びに行こー』
いつも通り軽く言っていた金森だが、約束はきちんと守った。
俺たちは『あの日』互いの気持ちを告白し合った海にいた。今回の目的は海ではなく、あの時二人で見た建物『水族館』だ。
『だいくんは水族館好き? 今度行こうか』
あの時は社交辞令的なものだと思っていたから、まさか本当に来ることになろうとは。
今回は水族館の駐輪場にバイクを停めた。
春休みとはいえ、平日なので思ったよりも人は多くなさそうだ。数人並んでいる入口の最後尾に着く。チケットは前日オンラインで購入済み。俺が子どもの頃とは違う、時代は変わったものだと母親世代のような感想を持つ。
「懐かしいなー。小学校の頃遠足で来たり、家族でも何回か来たんだよなー」
「ボクも小学校の遠足で来たのかなー?」
「小学校おんなじじゃん。だいたい毎年学年ごとにどこ行くか決まってるよな」
「あ、そうだっけ?」
金森の昔の記憶が曖昧なのは、その頃から何にも興味がなかったせいかもしれない。
「ちょっとちょっと」
俺と金森の身長差は三十センチ近い。手で屈むように示すと身体を少し傾けてくれた。金森の顔近くまで近づいて小声で言う。
「俺と来たこと、忘れんなよ」
金森は「もちろんだよ」と答えてからくすりと笑った。
「なに?」
何かおかしかったろうか。
「うん、だいくんがこんなとこでデレるとは」
金森は耳元で囁いた。その声が妙に甘くて、顔が熱くなる。
「デレてねーっ」
しかし内心は失敗したと思った。
(何言ってんだ、俺。こんなとこで)
前にも後ろにも横にも人がいるというのに。
(や、でも。友だちだってこういうことするだろ?)
無理矢理自分に言い聞かせる。
ちらちらと周りに視線を走らせてみても、それぞれ話に花を咲かせているようで特に見られているようには感じない。
(まぁ……そうだよな)
とりあえずほっとしながら、俺たちってなんに見えるだろう、などと考える。
(友だち? 兄弟? 恋人同士……はないだろうな)
兄弟にしては似ても似つかない。友だちが無難なところだが、それにしてはアンバランスだ。
背が高くて髪オレンジで色白のチャラそうなイケメンと、冬でも夏の日焼けが落ちきれない、どこにでもいそうな顔の体育会系チビ。
友だちにしても不釣り合いな気がする。
(マジでこの人、俺なんかのどこがよかったんだ?)
あんなに悩むほどどこを好きになってくれたのか、さっぱり分からなかった。
「だいくん、どうしたの? 行くよ〜」
あれこれ考えている間に自分たちの番が回ってきた。
(ま、いっか。今日はせっかくのデート……デートって思っていいんだよな?)
中も思ったほど混み混みではなかった。
三階ぶち抜きの大きな水槽を二人で眺める。手を繋ぐのはさすがに無理だが、肩が触れ合う――いや、背の高さがまったく違うので、実際には肩と腕になるんだが、そんな密着した位置で常に並んでいる。
イワシがぐるぐる群れをなして回っているのを見て、
「おいしそー」
などと言うので「ばーか」と言ってやった。
小さな穴に二人して頭を突っ込んで覗き込んだり、エイがいる水槽の下をくぐったり、大きな蟹に驚いたり。
海月のいるブースでは時間になると映像のショーがある。その時間はブース内全体が暗くなる。
俺は不意に手を繋ぎたくなったが、手をもぞもぞさせただけで実際にはできない。
「あ!」
俺は小さく声を上げた。隣で「しー」と金森が自分の唇の前にすっと綺麗な人差し指を立てている。
もう片手の指は俺の指に絡んでいる。
「大丈夫、暗くて見えないから」
俺はその手を振り解こうとはせず、自分からも少しだけ力を込めた。金森は俺のできないことをいつもスマートにやってのける。
映像が終わると通常の照明になる。その瞬間にはもう手が離れていて、少しだけ寂しい。
「ねぇ、お腹空いたね」
そろそろ昼時だ。
「たしかこの上に売店があったような」
ちょうど進行方向に階段がある。
「そうなんだ? じゃあ行ってみようか」
階段を上がると俺の記憶通り売店があった。土産物と軽食が売っている。
「お土産物屋さん、ちょっと見ていい」
「いいけど」
それぞれふらふら売店を巡る。
俺は海の生き物がぶら下がっているストラップの前で立ち止まって、それらに軽く触れた。カクレクマノミ、ペンギン、イルカ、海月……と種類も豊富。
(お揃い……とか)
一瞬考えてぶんぶんと頭を振る。
(女子かっ、まったく)
そう自分に悪態をつく。
「なにか買うの?」
いつの間にか金森が隣に立っていた。いつから見ていたんだろうと思うと少し恥ずかしくなった。
「別に。それより何か食べよう」
「了解」
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