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第一章【10】エルフ城への帰還
転移魔術で城の中庭へと降り立ったユリは、緊張が一気に解け、その場にヘロヘロと座り込んだ。
「ユ、ユリ様っ?!」
近くにいたエルフがユリの姿に驚き、駆け寄ってきた。
「ユリ様っ! よくぞご無事で……!」
そのエルフが大声で「ユリ様が戻られた!」と呼びかけると、ワラワラと他のエルフ達も中庭へ集まってきた。
「ああっ! ユリ様、良かった!」
「今までどちらに?!」
「皆で心配しておりました」
「どこかお怪我は?!」
囲まれ口々に尋ねられ、ユリは戸惑いながらも立ち上がり口を開いた。
「大丈夫だ。なんともない。少し部屋で休む」
とにかく今は一人になりたかった。ユリが歩き出すとエルフ達は道を開けた。石と樹でできた回廊を渡り自室へと向かう途中、二名のエルフが後を追ってきた。
「ユリ様、アルマス殿からはユリ様が発情されて森ではぐれたと報告がありましたが、今までどちらにおいでて?」
やはりアルマスは正気を取り戻し城へと戻ったようだ。ユリは咄嗟に頭を巡らせ、話を作った。
「森で……ろ、老婆に助けてもらって……」
「老婆? 人間ですか?」
「人間、だったと思う。その者の小屋で発情が治まるまで過ごしていた……」
「森を探しても見つけられませんでしたが……」
「魔術で小屋を隠しているようだった。術自体は簡単なものだったが」
作り話ではあるが、ユリの頭の中には先ほどまで居た小さな小屋と庭のイメージが広がっていく。
「それはそれは。ではその老婆にお礼をせねば……」
「いや、人嫌いで森に独りで居るらしかったからっ」
「左様でございますか……」
心配している同胞に嘘をつく居心地の悪さを感じていると、もう一人のエルフが涙声で言った。
「私たちはユリ様がオークに攫われてしまったのではと思って……」
「い、いや、オークには……出会わなかったよ」
ユリは強く否定した。オークと関係を持ったなどと知られるわけにはいかない。嫌な冷や汗が噴き出してきたが、エルフ達は疑うことなくユリを信じている様子だ。
「本当にご無事で良かったです」
「ええ、本当に。野蛮なオークになぞ攫われてたら、ユリ様のこうしたお元気なお姿は見られなかったでしょうから」
にこやかに話す仲間たち。ユリは言いようの無い苦しさを感じた。
ユリは独り自室へと入ると、部屋の中にある螺旋階段を駆け下りた。降りたその先には陽が差し込む小さな中庭があり、小さな泉が湧き出ている。
ユリは急いで服を脱ぎ、その泉に飛び込んだ。
ザブザブと身体を洗いながら肌を確かめた。しかし予想外にも身体にはアザ一つ無かった。さらにユリは股の間に手を差し入れ、尻の谷間に指を這わせた。
「っ……」
先ほどから強い違和感がある。歩くと特にだ。今まで排泄器官でしかなかったはずのそこに触れると、そこは柔らかく解れ、指先が容易に潜り込んでいく。
「そんなっ……」
ここでオークを受け入れたと言うのか。
ユリの頭に先ほど見たライモの股間が思い浮かんだ。
「あ、あんなものが、入るわけが無いっ!」
ユリはその記憶を振り払うようにバシャバシャと顔を洗った。
発情期中の記憶はかなり曖昧だが、全く無いわけではない。しかしユリは思い出すのが怖くて向き合うことが出来なかった。思い出そうとすれば、自分が壊れてしまう気がした。
その晩、ユリは夢を見た。
肌寒い寝床。固くゴワゴワしている布地の先を手探りで探すと、すぐ近くに大きくて温かいものがあった。
「……寒いのか?」
「ん……さむい……」
低く響く落ち着く声。太い腕は壊れ物を扱うように優しくユリを抱き寄せ、温かく広い胸で包み込むと、髪を優しく撫でてくれた。
「あったかい……」
深い森のような香り。
ずっとこうしていたいと思うほど、ユリは幸せを感じていた。
―――翌日。
目が覚めたのはひとりぼっちの寝台の上。
絹のサラリとしたシーツの滑らかさはむしろ冷たいと感じた。
自分の居場所はここではないような感覚。何かが自分の中で変わってしまった気がするがそれは探ってはいけない気もしていた。開けてしまえばもう前のようには過ごせなくなる。
言いようの無い虚無感を隠しつつも日常を取り戻さねばと思い、これまで通りに午前中を過ごしたユリだが、アルマスが依然として顔を見せないことが気になった。
予想外に早い発情で、意図せずアルマスを惑わしてしまった。ユリに無体を働いたアルマスはきっと合わせる顔がないと思っているのだろう。
「アルマスを呼んできてくれ」
昼食を終えた午後。アルマスに会って許してやらねばと思い、ユリは近くにいたエルフに声をかけた。
「アルマス様はオーク討伐に出ておいでですよ」
「はぁ?! いつから?!」
予想外の言葉にユリは驚き声を荒げた。
「一昨日からです。オークの村を探して、ユリ様を救出するのが主な目的で……」
「わ、私が戻ったと知らせは出したのか?!」
「恐らくは……」
「何人で行った?!」
「50名程……」
「軍を出したのか?!」
ユリは口の中で小さく「クソッ」と悪態を付くとすぐに中庭へと向かった。
「ユリ様?! 如何するおつもりで?!」
「アルマスを止めてくる」
「ユリ様が行かずとも使いの者が参りますので!」
「間に合わなかったらどうするのだ!」
いつも温厚なユリが声を荒げた様子にそのエルフは驚き固まった。ユリはそんなエルフに構うことなく転移魔術で森へと向かった。
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