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第一章【12】西のエルフ王

「オークの巣を見つけたのに、何もせずに帰ってきたんですって?」  エルフの城の地下にある謁見室。  ひんやりとした石造りの広い空間で、ユリはアルマスと共に膝をつき頭を下げていた。 「陛下の軍をお借りしたにもかかわらず、申し訳ございません」  静かに謝罪を述べるが、嫌な汗がドッと噴き出してくる。 「面を上げなさい」  無機質な声が真上から降ってくる。ユリはそろそろと頭を上げた。  真っ白な石でできた巨大な玉座に座るのは、神々しいまでに若く美しいユリの祖母エヴァリーナ。彼女が西のエルフ領を治める王だ。  裾の長い純白のドレスをまとい、金色の髪は一糸乱さぬよう纏められ、表情もまた人形のように乱れることはない。  エヴァリーナには孫が数多いるらしいが、彼女のことを『おばあ様』などと呼べる者はいなかった。何人たりとも逆らうことなど許されない圧倒的な王。それがエヴァリーナだ。 「私の許可なく勝手に軍を出したくせに、何もしなかったなんて。何故オークを駆除しなかったの?」  エヴァリーナからサラリと出た『駆除』という言葉。まるで畑の虫を追い払うような感覚だ。  ユリは言葉を選びつつ答えた。 「私がオークに攫われたのではないかと、皆は思ったようなのですがそれは誤解でございます。いわれなき罪を理由にオークを成敗するのは、気高きエルフとしては恥すべき行為かと思い、」  説明の途中でそれは飛んできた。目には見えない何かが空を切り、ユリの頬をバシンッ! と打った。 「ユッ……!」  隣にいたアルマスが咄嗟に声を出しそうになったが、同時に息を呑んだのが分かった。エヴァリーナが魔術でユリを叩いたのだ。  凄まじい衝撃によろけたユリは頬を押さえ、エヴァリーナを見上げた。叩かれた頬が燃えるように熱い。否応なしに恐怖心が湧いてくる。 「オークは見つけたらすぐ殺さないと。あれはすぐに増えるのよ」  何事もなかったように平坦な声色で話すエヴァリーナ。ユリは震える心に鞭打って反論を試みた。 「お、恐れながらっ! 今後オークは我らが領地には立ち入らないと約束しました。どうか今しばらく様子を見ていただきっ」 「そんなのすぐ忘れるわ。あれはたった50年でほとんどが入れ替わるのよ。ああ、本当に気持ち悪いわ」  無表情だったエヴァリーナの顔に不快感が滲む。エヴァリーナは心底オークを毛嫌いしている様子だ。嫌悪感を理由にオーク討伐を命じているならば、どう説得したらよいのか。 「まあ、いいわ。もうオークに関わりたくないのでしょう? その気持ちはわかる。ユリ、あなたはあなたにしか出来ないことをすべきね」  焦るユリだったがエヴァリーナはあっさりと引き下がった。再び軍と共にオークを殲滅してこいと言われたら、どうしようかと思っていた。  安堵するユリだったが、エヴァリーナはさらに続けた。   「発情期が来たんですってね。なんでも森でヒトの老婆に拾われたとか?」 「は、はいっ。その老婆に保護してもらいまして」 「本当に老婆だったのかしら? 男かαだったのではなくて?」 「い、いえ、確かに老婆です!」 「確かめて」  エヴァリーナの指示で控えていた側近が二人、ユリに近づき、ユリの衣類を脱がし始めた。抵抗することは許されないと理解していたユリはただただそれに従った。アルマスは顔を背けていた。 「ユリ様、手をついて」  下肢の衣類を脱がされたユリは、床に四つん這いにさせられた。そして側近の一人がユリの尻を割り開き、もう一人がその奥を探る。 「っ……」  屈辱に耐えるユリだったが、側近はさらに指を中に入れてきた。グリグリと中を探られ気持ち悪さに叫び出しそうだった。  すると。 「破瓜しています」  側近の一人が断言した。  それまで顔を伏せていたアルマスが、ガバっと顔を上げ、信じられないと言いたげに目を見開きこちらを見てくる。 「ろ、老婆に、張り型を渡されて……自分で、慰めておりましたっ」  屈辱的且つ、苦しい言い訳だとは思いつつも、ユリにはそう言うしか無かった。 「子ができたりはしてないでしょうね」  エヴァリーナはユリの言い訳や存在自体を無視するように側近に向けて話す。側近がユリの下腹に手を伸ばすと、その手が青く光を放ち始めた。ユリの中に別の魂が宿っていないか調べているのだ。  ユリの鼓動が早鐘のように鳴り始めた。 「子はできておりません」  その言葉にユリは安堵した。だが同時に別の想いも湧き出てきた。それはなんだかとても苦い。 「ひとまずはお前の話の通りだとしておきましょう」  無様に身体を調べられているユリにエヴァリーナの無機質な声が降ってくる。 「発情したなら、もう東のエルフ王に嫁がせるべきね。あちらに連絡してちょうだい」  エヴァリーナの指示に側近が「承知いたしました」と返す。  ユリは絶望した。  これまでは早く200歳を超えて、あの美しいエルフの元へ嫁ぎたいと思っていたのに、今は全く真逆の気持ちだった。 「ユリ。お前は300年ぶりに生まれた我が王家のΩよ。その自覚を持ち私に尽くしなさい」 「……はい、陛下」  にっこりと笑顔をむけるエヴァリーナ。その笑顔は作り物のように美しく怖いくらいだ。  ユリには抵抗など許されなかった。ユリは自分の身体も人生も、全てエヴァリーナのものなのだと再認識した。

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