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第二章【6】タル襲来

――数日後。  その日はよく晴れていて、ライモはオークの村に行ってくると言い、朝から出かけていった。  ライモは春に向けて旅支度を進めてくれている。目立たないようにユリの服もライモが作ってくれるという。  知らない土地への転移魔術は谷に落ちたりする可能性があるので使えない。なので旅は徒歩で進むことになる。そんなライモとの旅を想像し、ユリはワクワクと胸を躍らせていた。 「そろそろ戻らなきゃな」  もう起きて城へ帰らなければならないのだが、ライモの香りが残る寝床は実に心地よい。上掛けに包まりうだうだと時間を消費していた時、小屋の木戸が開く音がした。 「ん? ライモ、忘れ物か?」  ユリは上掛けから顔を出し、戸口を見た。 「うそ! エルフ?!」 「なっ?!」  小屋に入ってきたのはライモより一回り小さいオークだった。声の高さから女だ。 「マジで、マジで、マジでっ?!!」  その女オークは叫びながらユリに駆け寄ってきて、ユリは慌てて起き上がると上掛けで身体を隠しつつ、寝床の上で身を丸めた。  ライモの目隠しの術が切れた気配はない。なのになぜこの隠れ家にライモ以外の者が入ってこられたのか。  ユリはすぐにでも逃げられるよう転移魔術を準備しつつ、その女オークの様子をうかがった。 「ライモがどっかでΩを囲ってるのは分かってたけど、まさかエルフだったなんて! ん? あんた、ひょっとして、この前のエルフの王子様?!」 「あ……えっと……」 「だよね? だよね?! なーんだ、もうあの時からデキてたのかぁ~。やけに二人とも穏便に済まそうとしてんなぁ〜とは思ってたけど、まさかライモがエルフとだなんて!」  早口で怒涛に話し続ける女オークに、ユリはどうしたらいいか分からずオロオロとするばかりだ。 「あたしタル。ライモの妹よ」 「あ、妹さん……。私は……ユリと申します」  咄嗟に名乗ってしまった。  動揺するユリだが、タルはなんてことはないようにユリのいる寝床に腰掛けてきて、ユリの顔を覗き込んでくる。  確かに言われてみればライモに似ている気がした。ライモと同じ銀の瞳。そして長めに伸ばし複雑に編み込まれた銀の髪。女性なので牙もちょこんと歯先が飛び出てるだけで、身体もライモよりもふた周りは小さい。 「どうして……ここがわかったんですか?」  ライモの妹だとわかり、ユリはやや警戒心を下げた。タルはなんだか友好的に感じるし、ここはライモの為にも上手く話をして口止めするべきだと考えた。 「ライモ、最近全然帰ってこないから、前に後をつけてきたの。そしたらこの辺りで消えて。今日は晴れてるから出てくるだろうって思って、朝から張ってたのよ!」 「そ、そうですか……」  自慢げに話すタルに、ユリは引き攣りながらもなんとか笑顔を作った。 「あのライモがそんなに夢中になってるΩってどんなコだろうって、ずっと気になってて! まさかエルフだなんて! アハハハ」 「あは、あはは……」  タルの豪快な笑い声とユリの乾いた笑いが小屋に響く。するとタルはユリに顔を近づけ、イノシシ鼻をヒクヒクさせた。 「ユリちゃん、確かに凄くいい匂いがするわ」 「タ、タル……さん?」 「……あっちの具合も凄いんでしょ? あのライモがひとり占めしてるくらいなんだから」 「……はい?」  するとタルはいきなりユリが包まっている上掛けを引っ張った。 「わっ! な、何するんですかっ!」  ユリは咄嗟に踏ん張ったがタルの力は強く、あっさりと上掛けを剥ぎ取られ、さらに仰向けに押し倒された。 「肌、白っ! 乳首すっごいピンク! 細いけどキレイな筋肉付いてるじゃない! こんな細い腰でライモのイチモツ、受け止めてんの?」  上からのしかかってきたタルは、笑いながらユリの剥き出しの胸を遠慮なく撫でまわしてきた。 「や、やめてくださいっ! あ、あなた、女の子でしょう! なんでこんなっ」 「あたしもαなの。抱くのも抱かれるのもどっちもできるわよ」 「は、はぁっ?!」 「なんなら交代でどっちも試してみる?」  とんでもない提案が飛んできて、ユリは驚きながら大声でそれを拒否した。 「わ、私はっ、ライモ以外とそういうことをするつもりはないですから!」  ユリはタルの手首を掴み抵抗すると、タルは動きを止め一瞬きょとんとして、次の瞬間また「アハハハ」と豪快に笑った。 「エルフって一人としかしないってこと? あー、だからライモも、村の女を抱かなくなったのかぁ。お気に入りに夢中ってだけじゃなくて、ユリちゃんが束縛してるんだ?」 「わ、私はライモを束縛なんかしてないっ!」  ライモが浮気していないという情報は嬉しいが、それを自分のせいにされるのは心外だ。ユリは語気を強め反論した。 「ふーん。ならユリちゃんからライモに言ってよ。たまには村の女やΩの相手もしてやってってさぁ」 「はぁ?!」 「だって、ライモは強い男よ。どの女もライモの子種を欲しがってるのよ」  タルの口から出たその言葉にユリは息を詰めた。 「まあ、ライモは村で自分の血ばかりが増えるのは良くないって分かってるから、加減して種付けしてるけどね。ライモってああ見えて几帳面なのよ。あは、もう知ってるか」  ライモが几帳面なのはユリもよく知っているが、問題はそこではない。 「た、種付けって……」 「ん? そんな裸でライモの寝床にいるくせに、そこまでウブなの?」  頭が真っ白になるユリに相反して、タルはニヤニヤと笑っていた。ユリはタルの言葉を必死に反芻し、なんとかその質問をひねり出した。 「ラ、ライモには、こ、子供がいるのか……?」 「アハハ、ライモはもう23歳よ? そりゃいるでしょ?」  目の前が真っ暗になった。  遠くでタルが「私も15で産んだし、私の種の子供だってきっと何人かはいるわ。女αって凄いモテんのよ」などと自分語りを始めたが、ユリにはもう聞こえなかった。 「……城に、戻らなきゃ……」 「え? あ、ちょっと!」  何も考えられなくなったユリは、何か言ってくるタルを無視して転移魔術で城へと戻った。  全裸のまま城の自室へと戻ったユリは、ヘナヘナとその場に座り込んだ。  驚きすぎて涙も出なかった。

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