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第二章【7】ひきこもり
ユリはライモに会いに行くのをやめた。そして、城の自室からも全く外に出なくなった。
夜はほとんど眠れず、逆に昼は寝不足でぼんやり。部屋に運ばれた食事にもほとんど手をつけず、ただただ、寝台や自室にある泉に浸かり無意味に時を流していた。
何もしたくないし、何も考えたく無かった。しかしその忘れてしまいたいことは、延々と頭の中に居座っている。
初めて好きになったひと。
全てを捨ててでも一緒にいようと決めたひと。
だが、そのひとに騙されていた。
だが、ユリの絶望に反して心も身体も『運命の番』であるライモを求め続けている。ユリはその矛盾に苦しんでいた。
ライモに会わなくなって十日目。
その日もユリは泉に浸かり、ただぼんやりと空中を見つめていた。
「ユリ様、起きていらっしゃいますか」
ノックと共にアルマスの声が聴こえてきた。
「……ああ」
ユリは泉につかったまま、力なく返事をした。
「あっ、沐浴中でしたかっ。失礼しました」
部屋に入ってきたアルマスは、半地下にある泉を覗くと慌てたように顔を逸らした。チラリと見える尖った耳が真っ赤になっているのが離れたユリにも見えた。
「要件は」
「は、はいっ」
ユリの無機質な問にアルマスは声を張り上げた。
「東のエルフ王、エルネスティ陛下よりお返事がございました! 来月、ユリ様をお迎えにいらっしゃるとのことです!」
その言葉にユリはビクリと身を強張らせた。
「しかも、エルネスティ陛下直々にお見えになるそうですよ! ユリ様もさぞ不安でしたでしょうが、もう安心でございますね!」
アルマスは実に嬉しそうに告げてくる。ここ数日、ユリがまた引き篭もってしまったのは、東のエルフ王から返事が来ないせいだと思っているらしい。
「……一人にしてくれ」
「ユリ様?」
「一人にしてくれと言ったんだっ!」
ユリは苛立ち、大声を上げると泉の水面を拳で叩いた。大きな水音と共に水柱が立ち、辺りが水浸しになる。
「ユ、ユリ様、いかがされたのですかっ」
ユリの様子に驚いたアルマスが、螺旋階段を降りようとする足音がした。
「頼む…っ、誰にも会いたくない……っ」
「ユリ様……」
手で顔を覆い苦しげに言葉を吐くユリ。アルマスはそのまま静かに立ち去った。
一人になり静寂が訪れると、ユリは自身の嗚咽から逃げるように水の中へと潜った。
その夜はいつも以上に眠れなかった。そもそも眠りたくもなかった。眠ればライモの夢を見る。温かな胸に抱かれ愛を囁かれる夢だ。夢の中はとても幸せなのに、目が覚めると全て嘘なのだという現実を突き付けられ、余計に苦しくなる。
東のエルフ王エルネスティが迎えに来たら、もうこの西のエルフ領へ戻ることは無いだろう。ライモに会うこともきっとない。
そうなればライモはきっとユリのことなど忘れ、オークの村で自身の子供や女たちと楽しく暮らしていくのだろう。そして50年程度で、ライモは完全にこの世界からいなくなる。
それなのにユリはこの先ずっとこの痛みを抱えて生きていくことになるのだろう。数百年、または千年以上。
「くそっ……ふざけやがって……」
深い悲しみは激しい怒りに変わっていく。
黙ってしおらしく東のエルフ領へ旅立つなんて、馬鹿馬鹿しくなってきた。
ユリは決意を胸に寝台から出て、自室の中央に立った。
「文句言ってやるっ」
ユリはそう吐き捨てると転移魔術を発動させた。
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