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第二章【9】諍い果てて(2)

「1年前、森でユリを見たときは、なんていうか……脳天を雷に打たれたみたいな衝撃が走ったんだっ! それからはもうユリのことしか考えられなくなって、その時からユリしか抱きたくないって思ったし、抱いてないし、他の誰かがユリに触れるのも許せない!」  ランプに照らされた銀色の瞳。強く鋭いその眼光はユリを逃がすまいと射抜いてくる。ユリは怯んだ。 「なあ、ユリ……その東のエルフ王ってどんな奴だ? 会ったことあんのかっ?」  つい先程まで怒られる対象だったライモが今度はユリを咎めてくる。ユリの心はさらにざわつき始めた。 「エルネスティ様には……子供の時に一度だけ会った。とても優しくて、とても美しいひとだった……」 「ユリは……そいつが……好きなのか? 俺よりも好きなのか?!」  ライモが語気を荒げて問いただしてくる。その目に怒りが炎が見えた。ユリを他の者に渡したくない。そんな想いがひしひしと伝わってくる。しかしそれはユリも同じなのだ。だからこんなにも苦しい。 「……エルネスティ様に初めて会った時、教えてもらったんだ……。Ωとαは天が定めた運命の相手がいて、出逢えば互いに強く惹かれ合うって。それは、まるで……雷に打たれたようで、互いにその存在を強く認識するって」 「そっ、それって!」  ユリの言葉にライモは大きく目を見開き、立ち上がった。 「エルネスティ様は、私に小さな雷を感じると言った。でも私には感じなかった。……私が雷を感じたのは、ライモと出会った時だけだ……」 「ユリ……!」 「ライモは私の運命の番なんだっ。ライモ以上に、好きになるひとなんて、いるわけないっ!」  涙声で叫んだ。それと同時にライモに抱き締められた。痛いくらい強く。強く。 「ユリっ、オレを選べっ! 東の王様に勝てるところなんて思いつかねぇけど、それでも、全力で幸せにする!」  抱き締められライモの体温を感じると心が揺らぐ。  つまりオークの男と女には、番や結婚と言う概念がないのだ。それに倣って生きてきたライモを責めるのは違うのかもしれない。  東のエルフ王エルネスティにだって既に複数の妻がおり、子供も何人もいると聞いている。千年以上生きているαの王だ。当然だと思ったし、それについてユリは何も思っていなかった。でもその状況がライモだとこんなにも苦しいのはなぜなのか。 「なあ、ユリ」  するとライモが抱擁を解き、ユリの肩を掴み真剣な眼差しを向けてきた。 「こんなに泣かせてすまん。でもユリには嘘はつきたくないから正直に言う。俺は俺の子が何人いるかもわかってないけど、そいつらが生まれて来なければ良かったとは思ってない。村の子は皆、元気に生まれて元気に育ってほしいんだ。ユリが嫌がっても消したい過去だとは思いたくないんだ。すまん……」  ライモはユリの目を見て力強く宣言してきた。ユリはライモを見つめたまま固まった。それでも涙だけは勝手にボダボダとあふれてくる。 ――ああ、ライモはライモなんだ。  ユリの胸に広がったのは安堵だった。  ユリの中の常識とは異なっているが、ライモは無責任なんかではないのだ。  エルフがオークの子を人質にした時も、ライモは自ら身代わりになると言った。ライモはしっかりと村の大人として、父親として、子を守ろうとしている。  だがユリの心はまっさらに癒されたわけではなかった。急には割り切れない。心がついていけない部分もある。 「ユリ……」  不安そうなライモの銀色の瞳が揺れていた。  ユリはライモの首に腕を回し自ら抱き着き、子供のように泣きながら訴えた。 「ライモ……っ、最後までしろよっ! ライモの種を身に受けた者がいるって思うと、悔しくて、悔しくて、気が狂いそうだっ……!」  ユリの言葉を聞いて、ライモはすぐにユリを抱き上げ寝床へと押し倒した。  ライモはユリにのしかかり貪るように口づけてきて、ユリもまた自らライモを求め舌を絡ませた。  10日ぶりにライモと触れ合う。身体が、魂が、歓喜に震えるのを感じた。もう二度と会わないと覚悟していた。しかしきっとそんなことは到底無理だったのだ。 「ユリ……俺はユリが『運命の番』じゃなくても、きっと……惹かれてたぞ」  ライモはユリの服の中に手を忍び込ませながら、ユリの耳元で囁き、その長く尖った耳にも唇を這わせる。 「んっ……ライモっ……きっと、私もだっ」  森で遠くから見ていただけの時から、仲間を引き連れるライモの統率力には感心していた。さらに突然発情してしまったユリを大切に扱ってくれた誠実さも、好きになるには十分すぎた。

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