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第三章【1】青い火の玉

「ユリっ! ユリっ!!」  ユリが吸い込まれた青い渦に向かって、ライモは必死に叫んでいた。自分もその渦の中へ入ろうと手をかざしてはみるが、その渦は実体がなく、中に入るどころか掴むこともできない。 『汚いこの虫けらがっ!』  すると渦の中に若い女が映った。真っ白な顔に白に近い金髪。そして青に近い緑の目をしたエルフだ。  女は怒り狂い血走った眼でライモを睨んだ。すると女のかざした手から青い炎が噴き出し、その炎は青い渦を越えてライモに襲いかかってきた。 「わあぁぁっ!!」  矢のような炎をライモは反射的に避けたが、炎はライモの顔面左側をかすめ、小屋の中へと入り込んできた。 『ライモっ!!』 『きゃあぁぁっ!』  渦の向こうからユリが叫び、女の悲鳴がし、渦から出る青い炎は途切れた。 『ライモっ! 逃げろ!! 出来るだけ遠くへすぐに逃げろ!!』  渦の中から捲し立てるように訴えるユリの顔が一瞬映った。 「ユリっ!!」  ライモはすぐに渦に駆け寄ったが、渦はフッと消えてしまった。 「ユリっ! ユリっ! ユリっ!!」  ライモは何度もユリの名を呼んだが、もうユリの声は聴こえない。それはほんの少しの時間だったが、部屋に引火した青い炎はどんどん燃え広がっていった。 「クソッ!」  ライモは悪態を着くと、近くに脱ぎ捨てていたズボンを掴み、全裸のまま小屋から飛び出した。火の粉がついたズボンを叩き、庭で急ぎそれを履く。そうしている間にも小屋は青と赤が混じり合った炎に包まれ、メラメラと燃えていく。  ユリが魔術で移転してくれた木の小屋。昨日ライモが脱がしたユリの服。ユリ専用に作った椅子。ユリがいい匂いだと言っていた鍋つかみ用の手袋。ユリと抱き合って眠った寝床。何もかもが炎にのみ込まれていく。もはや成す術もない。 「クソッッ!!」  ライモは小屋から目を背けると、裸にズボンだけ履いた姿で冬の森を走り始めた。ユリが『出来るだけ遠くへ逃げろ』と言ったから。  あの青い渦の向こうはエルフの城だと思われた。あの女エルフは王族か魔術師なのだろう。エルフ達にユリとライモの関係がバレてユリは魔術で連れ戻されたのだ。  ユリが『遠くへ逃げろ』と言ったのは、きっとこの場所もエルフ側にはもう分かっている可能性があるということだ。エルフの王はオークを討伐しようとしているとも聞いている。  ライモは自分の無力さに腹を立てながら森の奥へと駆け込んだ。  顔の左側がジリジリとする。青い炎は掠めただけだが、あの一瞬でライモの肌を焼いていた。 「クソッ、クソッ、クソッッ!!!」  何度目か分からない悪態をつき、森の日陰に積もっていた雪を掴み、火傷を冷やす。左まぶたから頭頂部にかけて強い痛みを感じた。幸い眼球には問題はなさそうだが。 「ライモっ!」  突然名を呼ばれ顔を上げると、森の奥から妹のタルが走ってきた。 「タルっ、なんでまたいるんだよっ!?」 「だって、ライモ、怒って出てったきりまた帰ってこないから、母さんや姉さんに様子見てこいって言われたのよ」  妹のタルがユリに会ったと言ってきた日からユリが小屋に来なくなり、ライモはタルに『ユリに何をした?!』と怒り、それきりオークの村には帰っていなかった。 「あーあ。あれ、ユリちゃんがやったの? エルフって怒ると怖いのねぇ」  タルがライモの背後を見て呑気に尋ねてきた。見れば目隠しの術が解けた小屋は猛々と黒い煙を吐きながら燃えている。 「ユリじゃねぇよっ」 「じゃあ、ヤケでも起こしてライモが燃やしたの?  ちょっと、酷い火傷だよ! 何やってんのよ?」 「俺でもねぇよっ!」  ライモは雪を握りしめ奥歯をギリギリと噛み締めた。  そんな痴話喧嘩程度のものだったのならどんなに幸せだっただろうか。ユリは連れ戻され、ライモは無力にもただ逃げる羽目になっている。 「ねえ……あれ、何……?」  突然、タルが空の彼方を指さした。ライモもタルが示す方向に目を向けると、霞がかかった冬の空に青く光る点が複数見えた。その点は徐々にこちらに近づいているように見える。 「や、ヤバい……」 「え、何?」  ライモは立ち上がるとタルに怒鳴った。 「タル、走れっ!!」 「え? え?!」 「逃げるぞっ!! 早くしろ!!」  ライモは空を見あげながら走り出した。状況が飲み込めないタルもライモの気迫に驚きながらも着いてきた。  空に見えた光は青い火の玉だった。それが無数にこちらへ飛んでくる。するとすぐに背後からドオォォンと爆発音が轟いた。 「きゃぁぁっ!!」  爆発に驚いたタルが悲鳴を上げた。  振り返るとライモの隠れ家があったらしき場所に巨体な青い火柱が立っていた。さらにその後に続くように次から次へと無数の火の玉が飛んできている。 「もう! なんなのよっ!!」 「いいから走れっ!!」

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