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第三章【2】隠し通路
火の玉は森のあちこちに落ち始め、同じように青い火柱が立ち森を焼いていく。もはや後ろを見ている余裕も無く、ライモとタルは森の中を必死に走った。
「タルっ! あそこだ!」
ライモは地面の亀裂を指さした。亀裂の中は洞窟になっているのをライモは知っていた。ライモは先にタルを洞窟へと降ろした。
「ひぇっ……足場、悪っ!」
「タルっ! 早くしろ!」
タルが降りたのを確認し、ライモも滑り込むように洞窟へと降りた。すると轟音と共に頭上を青い炎が舐めるように走っていく。
「ここら一帯を焼き払う気だな。タル、こっちだ」
ライモは洞窟内に置きっぱなしにしていたランプに火を灯し、歩き始めた。
ここはライモが通路として使っていた場所だった。この洞窟のおかげで冬でも天候を気にせず、村から小屋まで通えたのだ。
「ねえ、ライモ、一体何が起こってんのよ?」
この異常事態にタルが当然ながら問い詰めてきて、ライモは足を止めることなく話した。
「ユリが、連れ戻された」
「ユリちゃん、来てたの?」
「夜中に来てくれて、話し合って……でもついさっき、小屋に青い渦みたいなのが現れて、その中にユリが吸い込まれたんだ」
火傷の痛みがビリビリと酷くなっている。しかし、それよりもつい先程まで腕の中にいたユリが、するりと抜けてあの青い渦に吸い込まれた光景に、どうしようもなく胸が苦しくなる。
「渦の中に女のエルフが見えたんだ。そしたらその渦から青い炎が出てきて小屋を焼かれて……ユリが俺に『逃げろ!』って叫んできて……」
「つまり、ライモがエルフの王子様に手を出したって、エルフ側にバレたってこと?!」
「ああ、そうだ」
「それでエルフ側があんなバカみたいな攻撃してきてるってこと?!」
「ああ、そうだっ!」
タルはあんぐりと口をあけ、足を止めた。ライモは驚き固まるタルにそのまま告げた。
「タル。お前はこのまま村へ帰れ」
「お前は、って? ライモはどうするつもり?」
「俺はユリを助けに行く」
「『助けに』って、『奪いに』の間違いでしょ?」
タルの言葉にライモはフッと小さく笑った。エルフ側から見たらそれが正しい表現だろう。
「ねえ、ライモ。一度村に戻ってよく考えなよ」
歩き続けるライモを小走りで追いかけながらタルが諭してきたが、ライモは首を横に振った。
「いや、のんびりはしてられない。早くしないとユリは東のエルフ王の嫁にさせられちまう」
「はあ?!」
ユリがいつ東のエルフ領へ行かされるのかは分からないが、こんな事態が発覚した今、事態は好転しない気がする。だからこそ一刻も早くユリを助け出さなければとライモは思った。
「ライモ。あんたたち二人が想い合ってることは理解したけど……もうこれで終わりにしなよ」
突然、タルが神妙な声色で語りかけてきた。きっとユリとの関係が発覚すれば、オークの誰もがそう言うだろうとは思っていた。
ライモはタルの言葉が聴こえなかったかのように黙って歩き続けた。
「だってさ、ユリちゃんだって、その東の王様の所に行くほうが幸せだって! もういい思い出ってことにしてさ、それぞれの場所に戻るべきなんだよ!」
ライモは足を止めて振り返り、タルを見た。
「違う。ユリは俺といた方が絶対幸せになる」
タルはまたポカンと口を開いて固まり、ライモはまた歩き始めた。
「いやいやいや! そんなこと言ったって、私たちはせいぜい70歳くらいまでしか生きないんだよ? エルフなんて千年以上生きるんでしょ? そんなのさ、」
後ろからタルがあーだこーだと否定してくるが、ライモは無視した。寿命の差などユリだってライモだってずっと気にしているが、結論は出ないのだ。それでも一緒にいたい。それだけだ。
「ライモっ!」
タルが突然ライモの手を掴んだ。
「ねぇ、死ぬよ?! ユリちゃんは違うんだろうけどさ、エルフなんて私たちのこと虫けらみたいに思ってるんだよ?」
「死なない。ユリに長生きするって約束したから」
ライモがきっぱりと宣言するとタルは「はぁ~」と呆れたように溜め息をついた。
「もう、分かったよっ! いや、ぜんぜん分かんないけど! でも、ユリちゃん奪いに行くにしても、一回村に戻りなよ。そのズボン一枚で何も持たずに行くなんて、エルフに殺される前に森で凍え死ぬよ。火傷も手当てしないと」
タルが言うことはもっともで。
村の位置がエルフ側にバレる心配もあり、ライモはこのまま立ち去ろうと思っていたが、タルは結局戻ることになるので、この際ライモが一緒でも変わりないように思えた。
あの高度な魔術を扱うエルフに無謀にも立ち向かうのだ。ユリを救う為にも準備は必要だ。
「……わかった。そうする」
ライモは改めて自分が冷静でないと感じた。タルには色々思うことはあるが、この場で出くわしたことは正直ありがたかった。
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