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第三章【3】洞窟の村(1)
オークの村の移転先は森の中にある巨大な洞窟だ。
抜け穴の洞窟から一旦外に出て、森を進み、さらに別の洞窟へと入り、複雑に入り組んだ空洞を進んだ先に村はある。
辿り着くまでの通路には、何重にも目隠しの術がかけてあり、オークが魔術を使えるとは思ってもいないエルフには到底見つけられないだろう。
「おおー! ライモ、久しぶりじゃねぇか!」
「どうしたんだよ、その火傷!」
村の中に入ると、オーク達が次々と声をかけてきた。
「ああ、ちょっとな」
ライモはあしらいながら洞窟の中を見渡す。
移転してまだ三カ月程度の洞窟内は、村というより難民キャンプに近い。家ごとに固まってはいるが、簡易的に布を張り間仕切りしている程度で、家とは呼べないものが並ぶ。元々各々家はあっても、近所の者が勝手に入ってくることが日常だった村では、状況にあまり差はないのかもしれないが。
「ライモ! やーっと帰ってきた。あんた、ソレ何したの?!」
「母ちゃん、ちょっと話があって……」
「何で焼いたらこんなんなるの? これ、あとで水ぶくれになるで?」
相変わらず人の話を聞かないライモの母親は、ライモの頭をガシッと掴み火傷の状態を確認すると、「ちょっと誰か、エベラの葉持ってきてー!」と叫ぶ。
「母ちゃん、大事な話がある。今すぐババ様と一緒に聞いてほしいんだ」
ライモは自分の頭を掴む母親の手を取り、目を見て真剣に話した。ババ様とはこの村をまとめる長老だ。
「な、何なの……?」
いつになく真面目に話す息子を不審そうな目で見る母親。するとライモの脇からタルが顔を出した。
「ライモ、エルフのΩを囲ってたのよ」
「はぁ?!」
母親どころかその場に居合わせたオーク達全員がどよめいた。そのどよめきは波のようにどんどん広がっていき、中には誰かを呼びに行く者すらいる。
「タル……お前なぁ……」
「だってここを出てくつもりなんでしょ?」
だからといって説明するにも順序というものがある。気づけばライモの周りにはオークの人垣ができていた。その中からライモと年が近い男が声を上げた。
「出ていくって、ライモ、マジかよ?!」
「ああ。そのつもりだ。まずは母ちゃんとババ様にちゃんと話したいんだ。すまん、通してくれ」
ライモは群衆をかき分け、母親を連れて奥へと進んだ。
「こりゃまた、ずいぶん男前になったじゃないか」
ババ様はライモの火傷を見るとニヤリと笑った。
御年89歳。体格は子供のように小さくなったが、豪傑だったと聞く昔と変わらず、今でもオーク達に尊敬されている高齢の女オークだ。
「ババ様、ライモったらΩのエルフとつるんでるらしいんですよ」
せっかちな母親が早速ババ様に言いつけ、ライモは話の主導権を渡してなるものかとすぐに口を開いた。
「ババ様、俺はこの村を出ていくことにした」
ババ様の目をしっかり見て伝え、さらに母親にも視線を向けた。
「もう決めたんだ」
「お前は何言ってんだい?! ここを出て、そのエルフと二人で暮らすって言うのかい?!」
「……あいつは今朝、エルフに連れ戻されたんだ」
ライモは経緯を説明した。
「魔術で青い渦の中に引き込まれちまった。渦の向こうは多分エルフの城だ。真っ白な顔をした女のエルフがその渦から炎を出してきたんだ。結局逃げるしか無かったけど、俺はあいつを奪い返しに行く。多分俺の顔はもうエルフ側に割れてる。村に迷惑は掛けたくない。だからもうここへは戻らない」
ライモが早口で説明すると、母親は絶句し、ババ様は穏やかに息を吐いた。
「運命の番だね」
突然ババ様から飛び出したその言葉にライモは目を見張った。
「ババ様っ、知ってんのか!」
「子供の頃に見たことがある」
「なんです? 運命の番って?」
ライモの母親が不思議そうにライモとババ様を見る。
「絶対に引き剥がせないαとΩの番だよ。出会った瞬間に互いに強く惹かれ合うんだと。ハハハッ、それがオークとエルフで起こるとはね」
「ライモとそのエルフがそうだって言うんですか」
ライモの母親は呆然としていた。ババ様は笑いを引っ込めて鋭い眼差しをライモへと向けた。
「運命の番が奪われたとなると、お前は何が何でもそのエルフを取り戻したいと思っているね。だが状況はかなり厳しいよ。その渦の中で見た白い女エルフ、きっとそれがエルフの王だ」
「えっ?! あの女エルフが?!」
エルフの王は男だと思い込んでいた。ライモが住むこの村は代々女が長になっているが、人間など、他の種族は男が権力を持つことが多く、ライモもそれが一般的だと認識していた。
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