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第三章【4】洞窟の村(2)

「あの女エルフはもはや魔女だ。もう何年生きてるか、誰も知らない。強力な魔力で誰も逆らえないから、代替りもせずずっと玉座に居座っているのさ」 「……あいつは、銀の首輪をしてたんだ。うなじを噛ませない為のΩの首輪で、王にしか外せないって言ってた。でもあれは居場所を感知する仕組みになってたんだ」  今朝ユリの首輪が光ってユリは連れ戻された。恐らくユリの居場所や状況はあの首輪を通してエルフ王に筒抜けだ。 「ババ様、首輪を外す方法、なんかあるか?」 「うーん……難しいねぇ。奴らが使う魔術は我らオークよりも遥かに高度だ」  首輪が外せなくても、番になれなくても、二人で居られればそれでもいいと思っていた。だがうまくユリをエルフ城から救い出せても、あの首輪をつけている限り結局は連れ戻されてしまう。 (ずっと放置してたくせに今さら……!)  ユリが発情期を迎えライモの隠れ家で過ごした時も、エルフ達は随分と騒いでユリを探したらしいが、王は首輪を使ってユリを探さなかったということだ。それは王がユリに無関心だったからではないのか。 (自分の孫を心配しない女の元で、ユリが幸せになれるはずがないっ!) 「その魔術に対抗する知恵をアタシは持ってないがね、エルフの城からさらに東に進んだ辺りに大きな街がある。あそこは古くからエルフも出入りしているから何かわかるかもしれないよ」  ババ様からもたらされた情報。希望の光とも言えないような小さなものだが、闇雲に進むよりもいい。ライモはそこへ行く決意をした。 「ババ様、ありがとう。行ってみる」  そしてライモは母親にも顔を向け、頭を下げた。 「母ちゃん、育てて貰った恩もまだ返せてないのにすまん」  母親は怒っているような泣きそうな顔をしていた。だが。  「お前の人生だ。お前の好きにすればいい。でも、無駄に死んだら許さないよ」  母親に強くそう言われ、ライモも強く頷いた。  ババ様との話を終え、洞窟の広い場所に出ると、オーク達が集まっていた。その中心にいたのはタルだ。 「で、ライモの相手ってどんなエルフなんだよ」 「チビを人質に取られた時に、ライモと交渉してたエルフよ」 「ああっ、あのエルフの王子様かよ」 「とびっきりベッピンだったヤツじゃねぇか!」 「あいつ、Ωだったのか!」 「凄くイイ匂いがしててさ、カラダも凄いのよ」 「マジで?! タル見たのかよ!」 「ヤ、ヤッたのか?」 「まあ、途中までだけどね。肌が真っ白で、乳首がすっごいピンクでさ、アソコの毛まで金髪で!」  オーク達から「おお〜」と歓声が上がった。ライモはズンズンと突き進み、調子に乗って喋るタルの頭を鷲掴みにした。 「イダダダダっ!!」 「お前、何を嘘並べてベラベラしゃべってるんだ」 「嘘なんて言ってないわよっ」 「お前が何もできなかったのは知ってんだ。良かったな。アイツに手ぇ出してたら、たとえ妹でもブチ殺してる」  本当はユリがタルにどこまでされたのか心配だったが、本当に上半身を見られただけのようだ。なにしろユリは股に毛が生えてない。あの皮を剥いた果実のようなツルンとした可愛いアレは誰にも見せたくなかった。  ライモの言葉に他のオークは皆驚いた様子だった。 「ライモ、そんなにそのエルフが大事なのか?」 「ああ。だからここを出てくことにした。もう戻らない」 「いや、ここで一緒に住めばいいじゃん」 「そうだよ、ライモが認めたヤツならエルフでもいいよ」 「ライモがダメって言うなら、俺たちだってそのエルフに手ぇ出したりしねぇぞ」 「そうそう!」 「お前ら……」  必死に引き留めてくれる仲間達にライモは胸が熱くなった。  この仲間達の中で過ごした23年。村は皆家族だ。でももう戻らない。その決意は固い。だが、帰る場所があると言うのは心強かった。 ――翌日。  火傷を手当てしてもらい、頑丈な服を身に着け、荷物を背負ったライモは村を出た。  出先にババ様が金貨を2枚くれた。驚いて「貰えない!」と言ったが、ババ様は「アタシにはもう使い道がないよ。冥土には何も持っていけないからね」と笑った。  さらに若い男衆からは7頭分の鹿の革を背負わされた。街で売って金にしろと言う。  母親やきょうだい達は皆、ライモがちょっとした旅に出るような気軽さで見送ってくれた。  皆、一様に「また帰ってこい」と言ってくれた。  洞窟を抜けて村を離れてから、ライモは少し泣いた。

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