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第三章【6】東の街(2)
ウサギ店主から教えてもらったのは街の広場に隣接している魔導具専門店だった。広場には他にも同じような魔法を扱う店が並んでいるが、ここが一番腕がいいらしい。大鍋をそのまま使った看板が目印だと聞いていたのですぐに分かった。
「おや、オークかい。珍しい」
明け放たれた入り口から店に入ると、雑然と物が積まれた棚の奥から老婆が顔をのぞかせた。
(ヒト……か……?)
ボサボサに伸びて広がった白髪頭に大きな鷲鼻。そして小さな眼鏡をかけた老婆。ヒトのような気がするが、ライモの知らない種族のような気もしてくる。
「ああ、西から来た。この街には俺みたいなデカブツが多いように見えるが……オークは珍しいのか」
「デカい奴らは多いけどねぇ。あんたらは大抵森から出てこないだろう。何か探してんのかい?」
話が早い。ライモはすぐに本題に入った。
「仲間が攫われて囚われてるんだ。なんとしても助け出したいが、相手は強力な魔術を使う。知恵を貸してほしい!」
「ほほう」
老婆は皺だらけの瞼を大きく見開き、興味津々に力説するライモを凝視してきた。
「そのアジトに忍び込む方法と、仲間につけられた首輪の外し方を探してる。首輪は居場所を感知する魔術が施されてるみたいで、外さないと逃げてもまた捕まっちまうんだ」
その囚われた仲間がエルフであること、そして囚われているアジトがエルフ城であることは言わなかった。どこから情報が漏れてエルフ側に伝わるか分からないからだ。
「ヒャッヒャッヒャッ、なかなかの難題だねぇ」
老婆は愉快そうに笑い、眼鏡をずらして肉眼でライモの足元から頭までを舐め回すように見てきた。
「あんた、少しは魔術が使えるようだね」
「見て分かるのか?」
「魔力が滲んでるよ。ヒトよりも少ないくらいだがね。どんな魔術が使える?」
「そうだな……。水をお湯にできるぞ。まあ、ぬるま湯くらいだけどな。あと、風も起こせる。木の葉を揺らすくらいだけど。あとは、」
「ろくなのがないねぇ」
老婆は小馬鹿にしたように笑う。ライモは他に無いか記憶を巡らせた。
「あとは、家の場所を隠してるやつとか」
「なんだ、使えるヤツがあるじゃないかい」
「えっ?」
「それは目眩ましの術だろう? 相手の意識を逸らす術だ。それを自分の身体にかければいいじゃないか」
「そんなこと、できるのか?」
「まあ練習してみるんだね。ああ、ここではやめておくれよ。そんなことまで付き合うつもりはないからね」
目隠しの術を自分にかける。そんなことは思いつきもしなかったし、出来るイメージがつかないが、成功すればエルフ城に忍び込むことが可能だ。
「首輪を外す方法はあるか」
「そうだねぇ」
老婆は立ち上がると背後の棚をゴソゴソと漁り、カウンターに青い小瓶を1つ置いた。
「これは?」
「ワシが調合した魔法薬さ。大抵の魔術は無効化できる」
「ほ、本当か?!」
「ああ。その首輪にこれをかければいいさ」
「す、凄いっ!!」
ライモは歓喜した。まさかこんなにもあっさりと解決策が見つかるとは、願ってはいたが期待はしていなかった。これで目隠しの術を自分にかけてみて、成功すればすぐにでもユリを助けに行ける。
「だけどねぇ、高いよ。この魔法薬は」
喜ぶライモに水を差すように老婆の声が響いた。
「貴重な材料をつかってるんだ。火竜の心臓なんかも入ってる。あんた、金はあるんかい?」
不審そうな目で見てくる老婆に、ライモは慌てて背負っていた荷物を解いた。
「金貨が2枚あるっ! あと鹿の革が7頭分。見てくれっ! 内2頭は白鹿だ。上等な毛皮だろう?!」
カウンターに置いた鹿の革を老婆は「ふむふむ」と眺め、何枚か捲り確認した。
「確かに上等な革だ。でも到底足りないね。金貨なら20枚だ」
「そ、そんなっ……!」
あまりの高額さにライモは愕然とした。愕然としながらも必死に考えた。
この街であと金貨18枚を稼ぐ方法はあるだろうか。見つけたとして、果たしてどれくらいの日数がかかるだろうか。それとも別の方法を探すべきだろうか。いやいやそれも見つかるか……。
「婆さんっ、時間が無いんだっ! 代金は後で必ず払う! だからその魔法薬を譲ってはもらえないか?」
「そんなの無茶だよ。今日会ったばかりのオークなぞ、信用できん」
「そ、そうかもしれないがっ……」
鼻で笑う老婆を前にライモは途法に暮れた。
ひ弱そうな老婆だ。もう無理やり魔法薬を奪ってしまおうか。そんな考えすらよぎった。
その時。考え込むライモを老婆が覗き込んで言ってきた。
「あんた、いい牙を持っているじゃないか」
「は?」
「その下顎から生えている牙だよ。太くて立派だ」
ライモは老婆を見た。ニヤニヤと笑う老婆の顔が酷く不気味に感じた。
「牙1本と鹿の革7枚で、この魔法薬を譲るよ」
「き、牙を折るのかっ……?」
「そんな、勿体ない! 引っこ抜くのさ!」
ゾッとした。この老婆は生きたオークから牙を抜くと言っているのだ。
ライモは迷った。
オークの男にとって太い牙は誇りそのものだ。だがそれ以上にライモの頭によぎったのはユリだった。ユリはこの牙を気に入って、よく撫でてはキスをしてくれた。失うには惜しい。
しかし、ライモの迷いは一瞬だった。
「分かった。牙を譲る」
ライモの答えに老婆は「おお〜!」と目を輝かせた。
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